貴殿は、楽や舞に精通しているのか
「その話は、某も耳にした。――一年ほど前に先の領主様が引退し、跡を継いだ息子は泉のように民から租税を湧きあがらせることが出来ると、思い違いをしているらしいな。旅の間に、連れて行かれる娘や、過酷な労働に駆り出される男たちを見た。無法者も増えた。そのせいで、某は旅を始めた頃に騙され、金品を奪われた」
だから今はこんなナリをしているのだと、部屋に通されたときにあんな態度を取ったのだと、美味なものの中に砂粒が混じっていたような顔をして、宗平は吐息と共に首を振る。
「今回の、大名の訪問もその噂を聞いての事だろう。このままでは民も黙っていないはずだ。所領の一つで一揆や暴動でも起こったら、面倒だろうからな――――しかし、孝明殿。貴殿は、楽や舞に精通しているのか」
孝明が疑念を顔に上せると、座る足を組み替えた宗平が杯で孝明と汀を差す。
「村の租税の代わりに領主様の元へ、行くんだろう。見目はそこらの娘よりも良いし、物腰も落ち着いている。女たちを下がらせる所作にも無理が無い。というか、手慣れているように見えた。その風貌で、荒れた寺に住んでいたというのなら、舞でも楽でも披露をしているうちに、貴殿にのぼせてしまった姫君から逃げたか、良い仲になったはいいが姫君の親か何かに邪魔に思われ逃げ隠れていた……と、考えた」
どうだ、と自分の推測を試すように身を乗り出した宗平に、残念ながらと孝明が応じる。
「荒寺に住まうことにした経緯は、今は詳しくは語れないが、おれは楽も舞も生業とはしていない」
「孝明は、法師なんだ。だから、寺にいたんだ」
孝明の言葉を追いかけるように、胸を張って汀が言う。
「法師?」
意外な言葉が出て来たと、宗平が頓狂な声を上げた。それでも汀は自慢げな様子を崩さず、ヒョウタンを持ち上げて見せる。
「この竜を作ったじじさまの手を、昔みたいに動くようにも出来るんだ」
「老人の手を昔のように――」
疑念を浮かべながら竜の根付に手を伸ばした宗平が、真剣な面持ちで細工を眺める。




