何事も無かったかのようにすべてが終わった。
「ヒョウタンの水を、意識し続けてきているな」
「どんなときに、どんなふうに揺れるかは、わかってる」
「そうか――なら、今からは、水の動きを意識するんじゃなく、水に自分の意識を伝えるようにしてみろ」
言われた意味が分からなかったらしく、汀は目を瞬かせた。
「そうだな――たとえば…………」
孝明が目の前の水たまりに――屋根の内側にまで入ってきてしまった雨に、目を向ける。目に力を込めた孝明の様子に、汀も水たまりに目を向けた。すると、水はゆっくりと持ち上がり、浮かび上がって外へ飛び出し、雨に打たれて地に落ちた。
「どうだ」
自慢げな様子もなく軽い調子で言う孝明に、目をまんまるにした汀がぎこちなく首を回して顔を向け、餌をねだる鯉のように口を開閉させる。彼を支配している驚きが硬直を解くまで待つ孝明に、一番に告げられた言葉は「すごい」だった。
「水が、ひとりでに浮いて飛んだ!」
目を輝かせ、頬を興奮で赤く染める汀のヒョウタンに、孝明は手を伸ばす。するとヒョウタンは、カタカタと震えだし浮かび上がった。再び言葉を失った汀の顔の高さに浮いたヒョウタンは、ぽんと栓を外したかと思うと細石と共に水を吹き出す。水と細石を全て吹き出し終えたヒョウタンは、再び汀の首に垂れ下がった。ふわふわと浮く水と細石は、孝明が指を振ればくるりと回り、ひょいと指を下せばヒョウタンの中へ戻る。すべてが再びヒョウタンのなかに納まると、栓がひとりでに閉まり、何事も無かったかのようにすべてが終わった。
ぽかんとする汀に、やってみろと孝明が汀の手をヒョウタンの上に乗せる。呆然としたままの汀の手と共に、ヒョウタンを振った。
「動いているのが、わかるだろう」
口を開いたまま、汀が頷く。
「水が動いていることを、感じつづけてきただろう」




