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いずれ、わかるようになる。
「ん?」
「どうしてだ」
待っても答えが出てこないことに、重ねて汀が問うてみる。そうだなぁ、とつぶやいた孝明は空を見上げた。
「昔は出来なかったことが、今は出来るようになった。今は出来なくなったことが、昔は出来ていた、ということだ」
孝明の答えに、汀は眉をしかめる。彼が何を言っているのかが、まったく理解できなかった。
「いずれ、わかるようになる。――忘れずに、憶えていればいい」
難しい顔をしてしまった汀とは対照的に、明るい顔の孝明は自分の言葉を口の中で反芻した。――昔は出来なかったことが、今は出来るようになった。今は出来なくなったことが、昔は出来ていた。
「おれが、小さなころは稲刈りが出来なかったが、今は稲刈りができるようになった、ということか」
「そういうことだな」
「でも、小さなころに出来ていたことで、今は出来なくなったことは、無いぞ」
「ほんとうに、そうか?」
にやりと問い返されれば、自信の無くなった汀は目線を落として鼻に皺を寄せる。そんな様子を楽しそうに見やりながら、孝明は語りかける目で焔を見、軽く焔の首を叩いて街道を急ぐでもなくのんびりと、進み続けた。




