道中では、法師ということにしておこうか
そっと目を開けた孝明が、ろうそくの明かりで宵闇に浮かび上がる職人の背中を見つめる。ちらりと見える横顔には、職人の誇りと気負わない真摯なものが満ちていた。それに、ふわりと頬を緩めた孝明は、横に眠る汀の幼くふっくらとした頬に指を伸ばし、軽くつつく。音とも息ともつかないものを吐き出した汀に目を細め、奥に眠る喜助に視線を投げて、瞼を下す。
薄く細く木を削る音を耳に心地よく受け止めながら、孝明は眠りの世界へと意識を進めた。
晴れやかな顔をして――けれど寝不足で目の下を黒ずませた職人と喜助と共に朝食をとると、孝明は汀を連れてすぐさま出立をすると告げた。たっぷりと休んだ焔が、待ってましたとばかりに鼻を勢いよく鳴らす。その背に少ない荷物をくくりつけ、汀を乗せて手綱を握り、村の入り口まで見送りに来た職人と喜助に「世話になった」と声をかける。
「いや、何のおかまいも出来ませんで」
「一晩の宿代と、二度の食費が浮いた。その上に細工物まで貰ったのだから、十分すぎる」
いつか機会があればまた、と言葉を交わして村を去る孝明と、振り向いて手を振る汀に見送りの二人が深く頭を下げる。しばらく歩き、彼らの姿が見えなくなってから、汀が不思議そうに孝明に声をかけた。
「孝明は、法師だったのか」
昨夜の、喜助の言葉を覚えていたらしい。
「はは――まあ、法師のようでもあり、そうでもないようでもあり…………そうだな。道中では、法師ということにしておこうか」
「なんだ、それは」
誤魔化されたとふくれる汀に同調するように、ブルンと焔が鼻息を吹き出した。
「それよりも、ヒョウタンの水の動きは十分に感じることが出来ているのか」
ますます誤魔化されたと思った汀は、それでも問いにきちんと答える。
「ちゃぷちゃぷして、小さな石がざらざらしていることくらい、ちゃんとわかっている」
憮然とした声に、そうかと返すと会話が途切れた。汀は、何か問いたいことが自分の中にあるのに、それを口に上せるための言葉が見つからず、ヒョウタンを抱え竜の根付を見つめながら、もやもやとつかみどころのない自分の中の疑念に意識を向けた。




