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鳴き響む  作者: 水戸けい
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ワシは死ぬまで職人だ。

 喜助の言葉を聞き流し、職人はひたりと孝明を見つめる。職人の目は、濁りも焦りも憤りも浮かんではいず、冬空のように高く青く澄み渡っていた。

「得心するようなことが、ありましたか」

「おかげさまで」

 静かに語り合う二人の間で、わけのわからない顔をした喜助が職人と孝明の顔を交互に見る。

「喜助、そろそろ夕餉の支度をしろ。グズグズしてっから、いつまでも嫁が来てくれないんだろうが」

「なんだよ、親父――なんでせっかくの話を断るんだよ」

「一度きりだけ、良い品が作れてどうする。ワシは死ぬまで職人だ。死ぬまで、納得できるモンを作り続けなきゃならねェんだよ」

「でも――今は領主様に献上するモンを作らなきゃならねェんだろ! だから……」

 言いさした喜助の言葉を、孝明が手のひらで制する。にこりとして、言葉を飲み込んだ喜助に言った。

「迷惑でなければ、一泊させてもらえると助かるんだが」

 孝明の言葉に喜助が首を縦に振り、狭いところで良いのならと言うのに、雨風がしのげるだけでもありがたいと返しながら

「日が落ち切ってしまう前に、おれと汀、二人分の食材を求めに山に入って来よう」

 いくぞ、と汀に声を掛ければ、真っ赤な目をした汀が唇を尖らせたまま立ち上がり、草履を履いた。

 後に残された喜助に背を向け、職人は作業机の前に座る。掘りかけの木材を目の高さに持ち上げて、何かを確認するようにくるくると回し始める職人の様子に、喜助は柔らかくゆがめた唇から吐息を漏らし、竈に火をくべるべく干している薪を取りに出た。


 山から戻って来た孝明と汀の手には、鳥と山菜があった。それらを調理し夕餉を食べ終え、筵を敷いて雑魚寝をしている孝明の耳が、規則正しく繰り返される木を削る音を捉えた。

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