孝明を見た職人は薄い笑みを浮かべてかぶりを振る。
わんわんと泣き声を上げる汀の背に、みずみずしい命の塊のような彼の背に、しわだらけの枯れた手が乗せられる。さまざまなものを作り出してきた手が、これから何かを生み出すであろう背中を、ゆっくりとさすった。
「そうか……そうか、そうだな…………まるくて、優しいか――――そうか」
汀の言葉は、職人の胸にある何かを打ち鳴らし、響かせたらしい。丸まった背中をさする職人の唇は、だんだんと若々しく勢いのある笑みにゆがみ始め、瞳は朝焼けの湖のように輝きだした。
「ありがとな」
職人のつぶやきは小さく、汀の泣く声にあっけなくかき消されてしまったが、それはしっかりとした重みと形を持って、汀の裡に職人の手のひらを伝って届いた。
ひとしきり泣き終えて落ち着いた汀を抱きしめた職人が、落ち着かせるように背を軽く叩く。憮然とした汀が身を捩り、そっと手を離した職人は竜の根付に触れ、愛おしそうに目を細めた。
「昔は昔――今は今……ゆく河の流れは絶えずして、人々の営みもまたしかり。とどまることを知らずに時は流れ、今を過去へと押し流し、未来を今へと変えていく」
謳うように言いながら、孝明が喜助を背に連れて現れた。
「――職人。その手を、一度きりでいいのなら昔のように動かすことが出来るようにしよう。そうして、あの店の主人が望むようなものを作り上げてみるか」
「親父。孝明様は、法師様なんだそうだ。法力で、一度だけ昔のように指を動かせるように、してくださるんだと」
朗報だといたわる声で告げてくる喜助に目を向け、孝明を見た職人は薄い笑みを浮かべてかぶりを振る。
「なんでだよ、親父――せっかく言ってくれてんだ。そうしてもらって、あの店主を納得させられる品を作ったらいいじゃねぇか! それをしたからって、別段どっかが悪くなるわけでもないらしいし、代金は竜の根付で先にもらっているからって、言ってくれてんだよ」




