あの程度のもの、出来て当然だ。
あくまでも丁寧に、やわらかく――へりくだるでもなく、媚びるでもなく、本心からだと告げるように、静かな声音で孝明が言うのに職人は鼻を鳴らした。
「そんなもの、出来て当然だ。――あの程度のもの、出来て当然だ。細工屋の店主は、あれを買い上げなかっただろう?」
かぶりを振った職人は、深く大きな吐息を漏らし、腕を伸ばして背を反らした。伸びをしてから、ふうっと緊張をほぐすように息を吐き出し、先ほどまでの険しく厳しい顔が嘘であったかのように目じりをゆるめ、孝明に顔を向ける。
「せっかく訪ねてこられたんだ。急ぎの旅では無いのなら、ゆっくりとしていきなさればいい」
声音までもが違って聞こえ、汀がいれば目玉をこぼしてしまいそうなほどに驚くだろうと、心中で面白がりつつ「それでは、お言葉に甘えます」と頭を下げた。
「孝明!」
そこに、声を弾ませ汀が飛び込んでくる。大切そうに両手で何やらを包み、こぼれんばかりの笑みを湛えて胸を張り、良いものを貰ったぞと報告をしてきた。それに膝を浮かせた職人が、首を伸ばして汀に声をかける。
「良いものを、この年寄りにも見せてもらえるかな」
自分の孫に声をかけるような様相に、汀もまるで彼が本当の祖父であるかのように親しげな顔を向けて、もったいをつけながら手を開いた。そこには、きらきらとした細石が彼の手いっぱいに輝いていた。ほう、と職人は眉を持ち上げて感心した顔を作る。汀の手にあったものは、採掘の折に出る――あるいは、形を整えるために削り落とした後のものばかりで、職人にとっては捨てるものという認識しかないものであるのに。
「ほら、孝明」
職人の様子に気を良くした汀は、孝明にも手の中の輝く屑石を見せてくる。それの上に手のひらをかざした孝明は、何かを確かめるように目を細め厳かな顔をして、しばらくそのまま言葉を発さずにいた。
「――あれ? なんか、温かくなった」




