「何が、見事なもんか」
ほう、と感心したように孝明が眉を持ち上げ、汀が目を丸くしてヒョウタンを持ち上げ竜を見つめた。
「これも、出来るまで何も食べずに作ったの?」
「一つの作業が終わるまでは、という意味だ」
汀には、これが様々な行程により作り上げられたものだという認識が、無いらしい。孝明の言葉に首をかしげる汀に、喜助が笑みかけた。
「どうやって、その竜が出来ていったのか順番を教えてやろうか」
「うん!」
元気よく答えた汀が、孝明を見上げる。行っておいでという代わりに頷き返せば、汀は喜助の横に立った。
「まずは、家の横に干してある材木から、見せてやろう」
二人が出ていくのを見送った孝明は、一心不乱に彫り物をする喜助の父親の横に座り、手元を見つめた。木を削る音が、小気味よく耳に届く。今は、荒く形を掘り出している所だった。材木には何の標も無く、職人は長年の経験と勘で手を動かしているらしかった。
シャッ、シャ――と木を削る音だけが家の中に響き、外からは汀が何やらはしゃいでいる声が聞こえてきた。
「面白いか」
ぽつ、と職人が手を止めず、目も上げずに口から音をこぼす。
「ええ、とても」
孝明も、職人の手元から目を離さずに答えた。
「見事なものです」
「何が、見事なもんか」
ごと、と荒く型だけを削られた木を机に転がし手を広げ、職人は忌々しそうに皺だらけの細い指を睨み付けた。血管が浮いた茶色い肌は、まさしく老人のそれであった。
「こんな、ロクに動かない指で出来るものなんざ、屑以下だ」
「ですが、汀は貴方が作った竜をとても気に入っています。おれも、あの竜には命があると感じた――優れた細工師は、技術だけじゃ無く命をも吹き込むものだと、思っていますよ」




