どうして孝明は、あの荒寺に住んでいたんだ
「ありがとうございました」
丁寧に頭を下げられ見送られ、手綱を何処にもつなげていないのにおとなしく店の脇で待っていた焔の傍に寄った。
「いいものを、もらったぞ」
両手で竜の根付を差し出す汀に、焔が鼻を近づける。ふんふんと鼻息荒く根付を確認する焔に、あげないからなと声を弾ませた汀に孝明が手を伸ばし、根付を取るとヒョウタンにしっかりと括り付けた。
「こうしていれば、落とさないだろう」
「うん」
「孝明様、汀様」
喜助に声を掛けられ、様付で呼ばれたことに身を捩った汀が、呼び捨てでいいよと喜助に言う。孝明からもそうしてくれと言われ、遠慮がちな顔をしながら喜助は頷いた。
「お公家様は、おれらのような者と言葉を交わすことも嫌がるモンだと思っていましたが、そういう方ばっかりじゃ、ねぇんですね」
焔の手綱を持とうとすることも断り、孝明が手綱を引き、その横を汀が歩き、焔の鼻先に喜助が立つという格好で、彼の村――彼の家を目指して歩きはじめる。
「おれも汀も、公家じゃない。汀の言うように、おれは荒寺に住んでいたし、汀は百姓の子どもだ」
「うへぇ? とても、そうは見えねェですがね。いったいなんで、そんな暮らしを?」
「そうだ。どうして孝明は、あの荒寺に住んでいたんだ」
二人からの質問に、困ったような顔で笑む孝明に汀が問いを重ねる。
「それに、どうして汚い格好をしていたんだ。きちんとすれば孝明はいくらでも嫁の貰い手があるんじゃないかって、かかさまが言っていたぞ」
汀の様子に、喜助が不思議そうに孝明を見つめる。
「お二人は、ずっと一緒に居たわけでは無ぇんで?」
「おれの村の近くに孝明は住んでいたし、いっぱい遊んだことはあるけど、声を聞いたりしたのは昨日が初めてだ。――そうだ、孝明。どうして喋れるのに、ずっと黙ったままだったんだ」




