「これ、おじさんが作ったの?」
見せてみろ、と促すように出した手を上下させる孝明の頭の先からつま先までを確認した店の主人は、彼の身なりが悪く無いことに怒りを落ち着かせ、それでも不承不承と言った態で彼の手の上に根付を置いた。
「ほう――」
それは、見事な竜の細工だった。うろこの一枚一枚が丁寧に彫られ、うねる体は躍動感に満ち、瞳は内側から琥珀がはめ込まれている。小さいながらも水晶を左手に掴まされた竜の姿は、見事の一言に尽きた。
「これが、献上品として納得できないという品か」
横に来た汀が、孝明の腕を掴んで背伸びをし、根付を見ようとする。その手に根付を持たせてやれば、わぁ、と汀は感歎の声を上げて日の光にかざし、竜を眺めた。
「これ、おじさんが作ったの?」
庭先に居る男に声を掛ければ、男は少々胸を張り、首を横に振った。
「これは、おじさんの親父が作ったもんだ。親父は足が悪いんで、おじさんが持ってきたんだよ」
「ふうん」
話を聞きながら、くるりくるりと角度を変えて竜を眺める汀の様子に、孝明が言った。
「店主、これはどうするんだ」
「献上できないと思う品を、買い上げることはできませんのでね。――しかし、貴方様が欲しいと仰るのであれば、買い上げてお売りすることも可能ですが」
ちらり、と主人が庭先の男を見る。庭先の男は店主を睨み付けながら、足元に唾を吐きかけた。そうして、嬉しそうに竜を眺める汀に目じりを下げて丸い声をかける。
「坊ちゃん。それが気に入ったのなら、持ってお行き。そんなに喜んでくれる人の手に在ったら、竜も喜ぶだろうさ」
「えっ――いいの?」
「もちろんだ」
頷く庭先の男に、店主が忌々しそうに舌打ちをする。それを横目で見ながら、孝明は問うた。