少し、見せてはもらえまいか
「せっかく作ったものは、どうなるの?」
「そりゃあ、ゴミになるか店に並ぶかのどっちかだ。主人が領主様への献上物にふさわしくないと言ったって、出来の悪いモンじゃねぇ。店頭に並んでいるものよりも、ずっと素晴らしいものだからな。ゴミにせずに、店に並べてくれりゃあ職人もまだ、救われるってぇモンだが…………」
店番の職人をおもんぱかる声に、汀が孝明を見上げる。
「その品は、何を作っているんだ」
「へぇ……木彫りの根付に石をはめ込んだ、なかなかの一品なんですが」
問われた店番は嬉しげに説明を始めるが、その顔はすぐに暗くしぼんでしまった。
「――前に作ったものは、竈の中に放り込まれてしまいましてね。いやはや、もったいない。買い手が付かなきゃ、職人は銭を受け取ることが出来ませんのでね。あれほどの見事な品を、火にくべてしまうなんて…………おっと、申し訳ない。内々の話をポロポロと――って、お客さん?」
話を聞きながら、孝明は店番の横を通り過ぎて奥に顔を突っ込んだ。番頭がぎょっとするのも構わず、草履を脱いで勝手に店奥に上がりこむ。
「ちょ、ちょいとお客さん!」
制止の声など聞こえぬ風に、すたすたと奥に進む孝明を、汀が慌てて追いかける。店番と番頭は顔を見合わせ迷ったが、他の客に声をかけられ追わなかった。
「取り込み中の所を、すまないな」
品を届けに来た職人を叱りつけている店の主人は、突然の訪問者にぎょっとして口をつぐんだ。
「店表まで、怒鳴り声が聞こえたのでな。なんでも、良い品だが領主に出すには不足なのだとか――少し、見せてはもらえまいか」
孝明が手を伸ばせば、店の主人は犬が噛みつく隙を狙うような顔をした。
「なんだ貴様は! 勝手に店に上がりこんで――」
「おれか? おれは、客だ」