「そういうことを、おれはしたんだ」
「そうだ――そういうときに、使う場所によって力がこもる場所が変わる。普段はそれは、血と同じようにぐるぐると体の中を流れているが、力を込める時には、そこに気がこもる。気脈は誰でも持っているが、力と同じで強さは人によって違う」
わかるか、と目で問えば汀は懸命に自分の中で咀嚼して、口に出した。
「走る時には足に力が入って、重いものを持つ時には腕に力が入って、でもそれは、大人と子どもじゃあ全然強さが違うっていう、こと?」
少しだけ語尾に不安を滲ませる汀に、そういうことだと孝明が目を細めた。
「その、力がこもる場所を少し変えたり、死なない程度に止めたりすれば、どうなるだろう」
問いかけに、唇を尖らせ眉間にしわを寄せて考える汀を、楽しそうに孝明が眺めながら湯の心地よさに息を吐き出した。
「――力が、抜ける?」
自信なさげな汀の答えに大きく頷き、孝明は説明を再開した。
「そうだな。力が抜けたり、気を失ったり――」
気を失うという言葉に、汀が「あっ」と声を上げる。
「気の流れが無くなるから、気を失う!」
良いことに気付いたと満面に悦びを示す汀に、その通りだと答えた。
「そういうことを、おれはしたんだ」
「そっか――でも、そんなことが、どうして出来るの? 大人は、みんな出来るものなの?」
「訓練次第でできるようになりもするが、人にはそれぞれ得意な事と苦手な事があるだろう。得意でなければ、昼間のようなことは出来ないな」
「孝明は、訓練をして得意だったから、出来るようになったんだな」
「そうだな――得意だったから、出来るようになった」
「ぼくも、出来るようになるかな」
その言葉に、孝明は目を糸のように細めた。