汀はずっと抱えていた疑問を、口にした。
うめき声すら上げず、一滴の血すら落ちてはいない。急に静かになったことで、そろりと目を開け顔を上げた汀は、倒れている男たちの姿に零れるほどに目を丸くした。そんな汀に、何事も無かったかのように微笑み長剣を腰に下げなおした孝明は、おとなしくしていた焔の首を撫でる。
「よしよし――動じずに控えているのは、偉いな」
焔がブフンと得意げに鼻を鳴らす。はは、と軽い笑い声を上げて手綱を握り、進みだす孝明の後頭部を、未だ目を丸くしたままの汀は見つめ、ちらりと後方に遠ざかっていく男たちの姿を振り向き、また前を向いて首をかしげた。
そうしてそのままポクポクと進み、街に出て宿を取り、古く狭いが手入れの行き届いた部屋に案内をされ、荷物を下して風呂にでよごれを落とそうかと孝明が提案する前に、汀はずっと抱えていた疑問を、口にした。
「孝明――」
「うん?」
荷物をひとまとめにしていた孝明が、顔を上げて汀を見つめる。真剣で不安そうな顔に、そっと近づき目の高さを合わせた。
「どうした、汀」
「…………あの人たちは、死んだの?」
誰の事かと、問うように孝明が首をかしげる。
「……昼間の」
「ああ」
おずおずと言う汀に軽く頷き、死んではいないと告げた。
「気を、失っているだけだ。今頃は元気になっている」
疑うように唇を尖らせた汀に、目の高さを合わせるために折っていた体を伸ばし、ぽんと軽く頭に手を乗せた。
「どういう理屈か、風呂で教えてやろう」
頭に乗せた手を汀の背中にすべらせて、促すように押しながら部屋を出る。