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鳴き響む  作者: 水戸けい
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そうだなと納得をして、その事を意識から外した。

 その顔は恐怖に強張りながらも、彼らを気遣う色を存分に滲ませていた。

「そんな顔をするほど、ひどい仕打ちをされるのか」

 唇を噛みしめた男が深く頷き、よければ詳しく聞かせてくれないかと問いかければ、心の奥底に沈めていた不満の蓋を慎重に持ち上げて、けれど語る時は噴き上がる火山のように熱く激しく、男は役人がどれほどに村を苦しめているかを告げた。そうして最後に、だから役人が来る日はおとなしくしておくようにと、怒りの色から気遣いの色に顔を戻して念を押した。

 その夜、遅くまで作業をしていた村の若者が、大きな鳥が羽ばたく音を耳にした。こんな夜更けに飛ぶ鳥など今まで聞いたことが無いと、好奇心から家の外に出て月光が煌々と藍色に照らす世界を見回してみても、鳥の影どころか雲の影さえ見えなかった。首をかしげて作業に戻った若者が翌朝に人に話せば、疲れて幻聴を聞いたか、何かの音を鳥の羽音と聞き間違えたのではないかと言われ、そうか、そうだなと納得をして、その事を意識から外した。

 その翌日、来るはずだった役人が、唐突な大名家からの使いを迎えなければいけないので、検分は先送りにするという連絡が村に届いた。村人はとりあえずしばらくは安心だと胸をなでおろし、子どもたちは遊びに出られると喜んで荒寺へと向かう道を駆けて行き、奥へ向かって声をかけたが何の返答も聞こえない。首をかしげて上がり込み、あちらこちらを探ってみても人の気配は欠片も無く、村に戻って報告をすれば大人たちも荒寺に来て、無人の荒寺を――人の住んでいた気配すらも失せている場所を確認し、どこに行ったのかと周囲を探していると、馬の足跡を見つけたと子どもが声を上げた。その足跡は林の奥へと続いており、途中で途切れてその先は何処へ向かったのかがわからなくなっていた。

 村人たちは彼らが逃げてきた公家だと思っているので、役人が来ると聞き、追手の可能性もあると考え別の場所へ行ったのではないかと、自分たちの納得のいく理由を見つけて落ち着いた。

 ――ひと月後。今までの役人は任を解かれ、新たな役人が租税の管理を行う事になったと、伝令の馬が村へ伝えに駆けてきた。

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