手を伸ばして汀の腕を掴み抱き上げた。
「そうじゃねぇけど、アンタは孝明の上官なんだろう? 孝明とおなじくらいの身分の奴が来ると、思ったんだよ」
ふむ、と宗平の言葉を受け止めた長親が手を伸ばし、汀を招く。汀はヒョウタンを腰につけて、長親の傍へ駆け寄り周囲を見回した。
「孝明は、いないのか」
「孝明は、まだ仕事中だ。その仕事が終わる前に、汀と宗平を迎えに来た」
「おれも――?」
いぶかる宗平に、長親が頷く。
「孝明が、自らの身分を明かしたらしいな。あれは、人では無い。物の怪だ」
「孝明の話じゃあ、突然に天帝の力を受け継いで生まれた人の子だったはずだがな」
ふっ、と息を吹き出した長親が、高らかな声を上げて笑いだす。
「なるほど、そうか。そんな説明をしたか――孝明は、よほどに宗平を気に入ったらしいな」
大笑する長親に眉根を寄せながら片目を眇める宗平が、手を伸ばして汀の腕を掴み抱き上げた。
「何が、おかしい」
宗平に抱き上げられた汀は、二人の顔を見比べてから妙な空気を感じ取ったらしく、宗平の首に腕を回してしがみつき、疑わしそうに長親を見た。
「ああ、そんなに警戒をしなくてもいい。そうか、はは――いや、すまん。孝明が人か、そうか――――そうだな、人だな。人の姿をしているな」
何度も頷いた長親が、息を吸いこむと同時に笑みを消して宗平を見た。
「あれを、人でいさせたいと思うのなら私と共に来い、宗平」
手を差し出され、手のひらと長親の顔を見比べた宗平は顎で背後の部屋を示した。
「とりあえず、話は上がってからにしようぜ。茶も、もうすぐ運ばれてくるだろうしな」
長親に背を向けて、宗平は汀を抱き上げたまま部屋に上がる。それに、長親が観察するような目を向けて従った。