「孝明も、同じなのか」
「おれは、そういう子どもらを見つけて監視し、必要があれば連れて力の使い方を教え、長親様に預ける役を担っている。――汀の村の荒寺に住んだのは、領主が新しくなり初めての租税の徴収が行き過ぎであることの調査と、汀の力の気配を感じていたことを受けての、行動だ」
「孝明も、同じなのか」
汀から目を離した宗平の言葉に、孝明は問いを浮かべた目を返す。
「誰かに拾われて、教わったのか。それとも、追われていたところを拾われたのか――」
問いを薄い笑みで受け止めて、孝明は静かな音を発した。
「いい、男だな――宗平は」
「答えろよ」
目を伏せた孝明が鼻から細く息を吐き、汀を手招く。小走りに寄った汀を片手で抱きしめて、強い目で宗平を見つめた。
「おれは、大名様の護衛に行かなければならない。その間に、汀のことを頼む。大名様のことが終われば、迎えに来る。それまでは、ここで汀をかくまってもらいたい」
「それが、おれを用心棒として雇った本当の理由か? 自分が出ている間に、汀をかくまっておける場所が欲しかったから、共に行くことを決めたのか」
慎重に言葉を出した宗平に、あいまいな顔をした孝明は汀の背を軽く叩き宗平へと押しやった。
「おれは、今から長親様の元へ行く。必ず、汀を連れに戻る。俺でなく、他の者が来るかもしれないが、その時はこれを確認するようにしてほしい」
懐から財布を取り出し、その中から鳥が描かれた銅版を抜くと宗平の懐に押し込んだ。
「普通の人として扱われ、これほど長く共に過ごして会話をしたのは、久しぶりだ」
安堵と望郷を纏った孝明の周囲に、風が巻き起こる。
「っ、あ――」
突然の小さな竜巻に煽られ巻き上がった砂をよけるために腕を上げ目を庇った瞬間、風音は止み砂が舞いあがった形跡も残さず、風は孝明の姿と共に消え失せた。