宗平の耳に、自嘲気味な孝明の声が届く。
「どういうことか、説明をしてくれるだろう」
「――――この国の神話を、知っているだろう。神が降り立ち人となり、この島を治められている天帝様になったと」
「ああ――そっから、いろんなものがつくられていったって話だろう」
「そうだ。……そして、天帝様の血筋は人と交わり、その数を増やしていく。天帝としての力を継がぬものは、名字を与えられ公家や武家となっていった。そしてそこから民草と交わり、薄まった血は今この国に生きている人のすべてに流れていると言ってもいいほどの歳月が流れた」
「それが、どうしたんだよ」
「わからないか――天帝としての力を継がぬものであったはずの血が、突如としてその力を持つ子を授かる時がある。その力の強弱の差はあれど、そういう者たちは親が気味悪がり仏門に入れたり、人買いに売られて見世物として扱われたりする。仏門に入り正しく力を使えるようになれば問題は無いが、そうでは無い者たちは世間では何と言われているか、知っているだろう」
ごくまれに、人ではありえない力を持つものが世に存在しているということを、宗平も聞いたことがある。そのほとんどが法師であり、修行により神の力を得たのだと言われていた。けれど、そうではないもの――仏門で修行を行わないままに、そのような力を持つものが何と言われているか、どのように扱われるかも、聞いたことがあった。
思わず汀を見た宗平の耳に、自嘲気味な孝明の声が届く。
「汀は幸運だった。強い力を内包していたが、発揮するような心理状況に陥らなかった。だから、誰も気付かなかっただけだ。だが、あのまま成長を続ければ溜まった力は漏れだしてしまっていただろう。その時に、どのようなことになるか――」
ぞわ、と宗平の産毛が逆立つ。その時に、汀がどのようなことになるか――おそらく、妖怪に憑かれたと追い立てられ命を奪われることになるだろう。共に暮らしていた者たちに、恐怖からくる殺意を向けられ刃を向けられ襲われるというのは、どんな気持ちなのだろうか。