表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳴き響む  作者: 水戸けい
101/114

どのような状態であっても、良家の子息であったということか

「湯殿の用意が出来ましたら、お呼びに上がります」

「おお、すまねぇな」

 気安げに女に返した宗平が、息を吐きながら大の字に寝転がる。いかにもくつろいだ風であるのに、孝明が納得をしたような感心をしたような声を出した。

「振る舞いから、本当に阿久津家の三男なのかと疑っていたが、なるほど……どのような状態であっても、良家の子息であったということか」

「あ? どういう意味だよ」

 むく、と起き上がった宗平が「いや、そうだな」と頭を掻く。

「言葉づかいもこんなだし、金目のものを持っていなかったしな。疑われるのは、わかるぜ。おれも、旅をしてすぐのころは疑われることにムッとしていたが、途中からは冗談だと言われるつもりで、名乗っていたからな」

 汀が庭先に下りて、池の傍に寄り中を覗くのを懐かしそうに眺めながら、宗平は続ける。

「ここは、阿久津家の家老と商家が話をするための、いわば取次所みてぇなモンなんだよ。一定の武家や公家になると、本宅に商人を上げることはめったとねぇ」

 ゆっくりと立ち上がり、部屋をぐるりと囲む廊下に立って庭を眺める宗平に、立ち上がった孝明が寄り添うように側に寄り、池の鯉を見つめる汀の小さな背中を眺めた。

「そして、認知はしているが本妻やその子どもらに配慮して、本宅に迎え入れられねぇ息子とその母親を住まわせるのに――忍んで会いに来るのにちょうどいい場所でもある」

 ゆっくりと春日のような穏やかで静かな笑みをたたえた宗平が孝明を見ると、孝明が少し自分よりも目線の高い宗明を見上げた。

「おれは、ここで育ったんだよ。――おれの家へ、ようこそってことだな」

「……そうか」

「ここにいるのは、おれの家族みてぇなモンだから、遠慮せずに気楽に過ごしてくれよ。なんなら、住んじまってもかまわねぇぜ」

 本気と冗談を交えた宗平の顔は、笑みを浮かべているくせに寂しそうに思えて、孝明はただ微笑みを返すだけにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ