突然脇の林から数人の男が躍り出てきた。
「孝明、馬はなんて名前にするんだ」
ゆっくりと馬と子どもに近づいた孝明が、そうだなぁと馬の首に触れる。馬の首を軽く叩きながら考える孝明は、汀を見た。
「汀は、この馬が好きか」
「好きだ」
間髪入れずに答えた汀に、そうかと深く頷いて孝明が胸を逸らす。
「では、馬の名前は焔だ」
「ほむら?」
「勇ましいだろう」
歯をちらりと見せて孝明が笑えば、子どもは大きな声でうんと言いながら肩まで使って頷いた。
「ほむら~ほっむら~と~みっぎわ~」
またも歌いだした子どもを抱きかかえ、焔と名付けた馬の背に乗せて手綱を掴み、歩き出す。ご機嫌な汀は焔の首にしがみつき、くすくすと鼻を鳴らした。焔もまんざらでもなさそうな顔で、孝明に手綱を引かれて進んでいる。そうして河原から街道に戻り進んでいると、突然脇の林から数人の男が躍り出てきた。
「この街道は、この猪之助様が管理をしている。通りたければ、通行料を置いていけ」
湾曲した大ぶりの刀を抜いてすごむ男に、鼻を鳴らした焔の首に汀が怯えてしがみつく。孝明といえば、特に困った様子も見せず、のんびりとかぶっていた女物の着物を焔の腰に掛けた。それを、馬に括り付けられている荷物を取ろうとしていると見た男どもの一人が、にやにやと浮かべる下卑た笑みにふさわしい声を出した。
「そうだ――そうやっておとなしく、通行料を渡せばいいんだよ」
けれど着物を掛けただけで荷には触れようともせず向き直った孝明に、男どもは疑念に目を眇めた。
「どうした。さっさと通行料を寄越しやがれ」
「どう見ても街道を管理しているようには見えない相手に、渡す通行料は持ち合わせてはいない」