楽園の村②~ふわふわの仔猫って可愛いよね!~
「た、た、助けてくれー!」
鼻水をたらしながら駆けてくる男。
「てめ、待ちやがれコラ!!」
「俺たちから逃げられると思うなよ!」
人相の悪い山賊風な男たち。
「ひぇっ、こっち来ないでー!!!」
固まった私。
……どうしてこうなった。
***
いつもの朝。
外からは、にぎやかな鳥の声が聞こえる。
「おねーたん、おっきしてくだしゃい」
「あと五分~」
ミーナの声が聞こえる。
眠りに溶けていた意識が少しだけ浮上する。
しかし、太陽の匂いのするお布団はとても気持ちよくて、わたしはミノムシのように丸まり浮上しかけた意識をまた沈めようとする。
……あぁ、朝の二度寝は至福だ。
再び眠りに落ちる寸前、お布団をグイッと引き剥がされた。
「ニーナ? 何でまた寝ようとするのかな?」
温かく爽やかな朝には不釣り合いなヒンヤリした声が聞こえた。
「……はぇっ?」
一瞬で目が覚めた。
パチリと開いた視界には、笑顔で腰に手を当てるお兄様がいた。
眠気なんてどっかに吹っ飛んだ。
「お、おはようゴザイマス、オニイサマ……」
「はい、おはよう。お寝坊さん」
冷や汗が流れる。視線を反らすことが出来ない。
あああ、お兄ちゃんがすんごい笑顔だ。これは怖い。
うーむ、よくない流れだね。どうしよう…と内心で思っていると、クイクイっと袖を引かれた。下を見ると、笑顔のミーナがいた。……こっちは癒されるね。
「おねーたんおねーたん、おはよでしゅ」
「ミーナおはようっ」
ナイスミーナ! お兄ちゃんから視線を外すことに成功したよ。流石わたしの天使!
わたしの内心などお見通しなのか、お兄ちゃんは苦笑している。
「さて、ニーナ、ミーナ急いで朝のお仕事を片付けて。朝ごはん抜きになるよ?」
ハッとする。……それはいけない!
わたしは急いで立ち上がる。
「今行きます!!! ミーナ、行くわよっ!」
「おねーたん、おきがえは?」
……あぁ、そうだった。危ない危ない。
わたしは急いで着替えると、ミーナと一緒に家を出る。後ろでお兄ちゃんが「そそっかしいなぁ」と呟いていた。
わたしとミーナには、朝のお仕事が二つある。
まず一つ目がウチで飼育している動物に餌やりをすること。餌やり以外はまだ危ないからということでお兄ちゃんの仕事だ。
わたしの家の裏手には厩舎があり、そこに六頭の馬がいる。ユニコーンの親子三頭とペガサスの親子三頭だ。
子馬たちは、まだ生まれたばかりでとても小さい。
わたしが乗るのにちょうどいいくらいの大きさだ。まぁ、乗ったりしないけどね。
美しい純白の馬たちはいつまで見ても飽きない。
厩舎に入ったら、一斉にこちらを見られた。その美しい瞳を見つめてみると、まるで「遅いよ! 早くご飯ちょうだい!」と言われているような気がする。
「みんなおはよー。遅くなってごめんね!」
「おはよでしゅ! いそいでやるでしゅ」
明るく挨拶して謝ったら、「しょうがないなぁもう」という目で見られた。
……ホントごめんね!
ミーナと手分けして餌をあげる。
「よし、終了! ミーナ、次に行くよー」
「あい、おねーたん。いくでしゅ」
優雅にごはんを食べるお馬さんたちに手をふる。
ヒヒンと一声鳴いて返事をしてくれた。
さて、二つ目のお仕事は隣の家のカルラおばさんに新鮮な卵を貰いにいくことだ。
隣のカルラおばさん一家は鳥の獣人で、最初お兄ちゃんと一緒に卵を貰いに行ったとき、わたしはかなりビビった。半泣きなわたしにお兄ちゃんは不思議そうな顔をしていた。
わたしは内心で「鳥の卵って……まさか、どうしよう」と不安になっていたが、その不安はすぐに解消された。
……鳥の獣人が鶏を飼っているのって、紛らわしくないかな!?
だけど安心した。すごく安心した。その日食べた卵は今まで食べた中で一番美味しく感じた。
ドアをノックをすると、カルラおばさんはすぐに出てきてくれた。
「カルラおばさーん、おはようございます」
「おはよでしゅ」
出て来てくれたカルラおばさんに元気よく挨拶する。
「ニーナちゃんにミーナちゃん、おはよう。はいこれ、今朝の分よ」
準備万端だったのか、すぐに新鮮な卵が入ったカゴを渡してくれた。
「ありがとうございます!」
「いいのよ。朝ごはんまだなんでしょ? 早く持って帰りなさい」
カルラおばさんにはお見通しなのか、ニコニコと「あまり寝坊しちゃダメよ?」と言われた。
……なんで寝坊したことがバレたんだろ? いつもより取りに来るのが少し遅れただけでそこまで遅いわけじゃないのに。
わたしは首をかしげながらミーナと手をつないで家に帰った。
「ニーナ、貴女そのままお隣さんに行きましたの?」
家に帰ったらお母さんに開口一番そう言われた。
「そうだよー。なんで?」
お母さんは困ったちゃんを見る目でこちらを見ていた。
……なになに、どうしたの?
不思議に思い首をかしげる。そんなわたしにお母さんはそっと手を伸ばして頭を優しくなでてくれた。
「──寝癖、ついてますわよ」
「え」
バッと急いで頭を触る。するとちょこんとアホ毛が……。
うわぁぁあああん! これは恥ずかしい!! わたし幼女だけどこれは恥ずかしいよ!?
あわあわする。すごいあわあわする。
「まぁ、終わったことは仕方ないですわよ」
羞恥で真っ赤になったわたしをお母さんは慰めるようになでてくれた。お兄ちゃんも近づいてきてなでてくれる。
「まったく、これに懲りたら、ちゃんと朝起きるんだよ?」
「……っ!! おにーちゃん、わかってたなら教えてよぉ~」
半泣きのわたしにお兄ちゃんはニッコリと笑った。
***
さぁ、気を取り直して今日の自由時間でっす。
ミーナと何をするか相談しようそうしよう。
「ミーナ、今日は何をしたい?」
ミーナのさらさらな髪をツインテールに結んであげながら聞いてみる。ツインテールはミーナのお気に入りの髪型だ。まだ自分ではうまく結べないのでわたしがやっている。
「んーと、ミケしゃんのところにいきたいでしゅ」
おぉー、ミケさんのとこか! いいねいいね! 可愛い赤ちゃんが無事に生まれたらしいんだよね。お祝いに行きたいと思ってたんだ~。
ミケさんはとても可愛くて真っ白い猫の獣人だ。ミケさんがこの村に来て初めて会ったとき“ミケなのに白っ!?”と思ったが、しかしすぐにそんな些細なことは気にならなくなった。ふわふわしていて可愛らしいミケさんが大好きになったのだ。
最近はミケさんが出産してすぐのため、気を使って会いに行かなかったんだけど……そろそろ行っても大丈夫かな?
お母さんに会いに行ってもいいか聞いてみたら、少し考えてから「そうですわね。そろそろ会いに行ってもいいでしょう」と言ってくれた。
よし! 今日はミケさんにおめでとうを言いに行くぞー!
早速会いに行こうと思ったが、ふと、良いことを思いついた。
「そうだ! ミケさんの大好きなマータの実とお花を持っていったら喜んでくれるかな?」
「あら、いい考えですわね。きっと喜んで下さるわ」
「わぁ! ミーナもがんばってつむでしゅ!」
わたしの提案にお母さんとミーナは笑顔で賛同してくれた。
この村の周辺は一年中色々な花が咲き乱れている。
しかしいつも同じ花が咲いているわけではなく、季節の移ろいによって咲く花が変化する。
わたしとミーナは、あれがいいこれがいいと綺麗な花を一本一本丁寧に摘んでいった。両手に色とりどりの花があふれる。
……最後にリボンで結んで……っと、完成!!
素晴らしい出来だ。二人の想いがつまった力作の花束がついに完成した。
「ミーナ、出来たわよ! どう?」
「ふわぁ。すごいでしゅ、おねーたん! きれいでしゅ」
わたしとミーナはお互いに顔を見合わせて、にっこりと笑った。
きっとミケさんも喜んでくれるだろう。
「よーし! じゃあ次はマータの実を採りに行くわよー」
「あい。いくでしゅ」
わたしたちは、出来立ての花束を持って気分良く森へと向かった。
マータの実は、薄い橙色をしている五センチくらいの大きさの実で、猫の獣人が特に好きな実だという。ミケさん一家にプレゼントしたらきっと喜んでくれるだろう。
わたしも食べたことがあるが、ほんのりと甘くて美味しい実だった。
いっぱい生っていたら、余分に摘んでいって家族と一緒に食べようと思う。
「ミーナ、見つかったー?」
「まだでしゅ」
以前マータの実が生っているのを見かけた場所へ来てみたが、小さい粒ばかりであまり育っていなかった。
仕方がないので、ミーナと二人でちょっとずつ森の奥へ入っていく。
「あ! 見つけた!」
「わぁ、おっきいでしゅっ」
いつもより森の深い場所へと入ってきてしまったが、お陰でとても大きなマータの実を見つけることが出来た。
二人で夢中になって採る。大量のお宝に満足した時、空気が微かに騒がしくなった。
「ん?」
おかしい。
この森は、セタおじいちゃんとシルヴィおじいちゃんとハクおじいちゃんの縄張りが重なっている場所にあるので、魔物や狂暴な動物などがいなくて安全だ。
森を騒がすような命知らずもいないはず……なのだが。
聞こえる声がどんどん大きくなる。木々の合間に走っている人影が見えてきた。
「オラ待ちやがれ!」
「た、た、助けてくれー!」
向こうから涙と鼻水をたらしながら駆けてくる男が見えた。そして逃げている男を追いかける男たちも。
「てめ、待ちやがれコラ!!」
「俺たちから逃げられると思うなよ!」
人相の悪い山賊風な男たちが二人、逃げている男を追っている。
びっくりして呆然と見ていると、逃げている男と目が合ってしまった。
「なんでこんなところに子どもが!?」
逃げている男もびっくりしているようだが、わたしもびっくりだ。てかコッチクンナー!
「ひぇっ、こっち来ないでー!!!」
わたしはミーナの手を掴み、やっとのことで走り出した。
しかし子どもの足だ。全力で走ってもすぐに追いつかれてしまうだろう。
後ろに迫ってくる重たい足音が怖い。
緊張のためか、いつもより息が切れるのが速い。
ガサガサと乱暴に草木を退かす音が怖い。
もつれそうになる手足を必死で動かす。
男たちのがなりたてる声が怖い。
ミーナとつないだ手に力がこもる。
ちらりとミーナを見ると半泣きだ。多分、わたしも半泣きだろう。
……怖い怖い怖い! でもミーナを守らなきゃ。ど、どうしよう!
必死で足を動かすが、男たちがすぐそこまで来ているのがわかる。
走っているからか、なにも良い考えが浮かばない。
お父さん。
お母さん。
お兄ちゃん。
……誰か、誰か!
もう、どうすればいいのかわからない。
わたしは恐怖で叫んだ。
「──だれか、助けて!」
風が、唸った。
後ろから悲鳴が聞こえる。
パッと振り向くと、そこには神々しささえ感じる銀色の狼がいた。
太い前足で山賊風の男たちを取り押さえている。
そして、逃げていた男の方は白い梟が音もなく押さえつけていた。
「大丈夫か?」
「怪我はありませんか?」
──シルヴィおじいちゃん、ハクおじいちゃん、マジイケメェン。
「だ、大丈夫……だよ」
助かった安堵から、わたしたちはヘタリと座り込んでしまった。
「でも、どうしてわたしがいるところがわかったの?」
「縄張り内で起こっている出来事は、私たちにはすべて手に取るようにわかります。ただ、いつも意識しているのでは気が散りますので、普段は頭の片隅で感知しているのですけどね」
シルヴィおじいちゃんたちは、わたしの悲鳴を聞いて駆けつけてくれたようだ。本当に間一髪だった。助けてくれたおじいちゃんたちにミーナと二人で感謝する。
……縄張り内で起きたことは手に取るようにわかるんだ。それはすごいねぇ。
ハクおじいちゃんと会話して少し落ち着いたので、取り押さえられた男たちを見てみる。
「あなたたちは、どこの人なんですか?」
逃げていた男は商人風の格好をしていた。聞くと、まんま商人だそうだ。
山賊風の男たちは人相が悪いだけで山賊じゃなかった。森の向こうにある獣人の村の人らしい。ちなみに男たちは見た目犬の獣人だ。たぶん犬だろう。
「……怖がらせちまって悪かったよ」
「本当にすまんかった」
山賊風の男たちが素直に謝ってくる。
……あんなに怖かったのに、今は叱られている犬を見ているようで、なんか可哀想な気がする。
我ながら現金ではあるが、精神的に余裕が出来たので寛容な気持ちになれた。
「いいわ。そもそも、何でこの人を追いかけていたの?」
すると、山賊風の男たちは何かを思い出したのかまた怖い顔になる。
「用事があって呼び止めたんだよ。なのにコイツは逃げやがったんだ」
「そうだそうだ。呼び止めたのにコイツは止まりやしねぇ。ついムキになってこんなとこまで追いかけちまったよ」
男たちの主張に、商人の男は少し申し訳なさそうな顔になる。
「すみません。私はてっきり追い剥ぎだろうと……」
「アァ!? んなことするわけねぇだろ! 俺たちは誇り高き狼一族の末裔だぞ」
「そうだそうだ! 今は混血化が進んでほとんど犬の一族と変わらないが、ご先祖様には狼の一族の血が入っているんだぞ!?」
自慢してるのかどうなのか微妙だ。
「ちなみに、どうやって商人のおじさんを呼び止めたの?」
「「おいオッサン待てやコラ!」」
「お馬鹿か」
こんな山賊みたいな格好をしたヤツらにそんな呼び止められ方したらそりゃビビるわ!
詳しく話を聞いてみると、この二人は商人さんが持っている荷物の中にホゥネーの実が入っていることを文字通り嗅ぎ付け、ホゥネーの実が欲しくて呼び止めたらしい。
しかし、商人さんは凄い形相で走りよってくる山賊風の二人にてっきり追い剥ぎだと勘違いして全力で逃走。
そして全力で走ったら道がわからなくなりここまでたどり着いたそうだ。
なんて人騒がせな話だろうね。まぁ、誤解がとけてよかったけど。
「……えー、つまり、あなたたちは犬の獣人なんでしょ?」
「犬じゃない! 俺たちは誇り高き狼の血を引く──」
「犬でしょ?」
「そうだ! ──いや違う!」
「そうだそうだ」
……ヤバい、楽しいなコレ。
全力で引っ掛かった山賊風の男その一に、わたしはついニヤニヤしてしまった。
性格悪いなぁ、わたし。
でも楽しい。
怖い思いをしたんだし、これくらい意趣返ししてもいいと思うんだ。
ぐぬぬぬぬと唸っている山賊風の犬の獣人。
思わず立ち上がろうとしたのか、シルヴィおじいちゃんの足に力がこもったのがわかる。
「ぐふぅ! すんませんっ!!」
「あまり動くんじゃない。思わず踏み潰してしまいそうだ」
「シルヴィ、それはやめてください」
スプラッタとかやめて!?と思っていたら、ハクおじいちゃんが止めてくれる。流石ハクおじいちゃん!……と感心していたら。
「──森が汚れるじゃないですか」
ですよねぇ。
とりあえずどう対処すればいいのかわからないので、全員村に連れていくことにした。
わたしとミーナがヘロヘロ歩いていたら、シルヴィおじいちゃんが村の手前まで乗せて送ってくれることになった。サラサラの毛並みが気持ちいい。落ち着くわぁ……と、ついついなで回してしまったら、シルヴィおじいちゃんに「大人しくしていろ」と素っ気なく言われた。しかし、口ではそう言っていたけど、シッポで慰めるかのようになでてきた。
……もう! シルヴィおじいちゃんたらツンデレさんなんだから!
心が温かくなる。
わたしはシルヴィおじいちゃんにぎゅっと抱きついた。
……そういえば、あの場にセタおじいちゃんが来なかったのが気になるわね。
何となく真っ先に駆けつけてくれそうなイメージだ。
ハクおじいちゃんに聞いてみると「セタも来ようとしていましたが、デカイ図体が邪魔だったので置いてきました」と言われた。
……セタおじいちゃん、来ようとしてくれたんだね。ありがとう。
今度遊びに行ったとき、あらためてお礼を言おうと思う。
***
「ニーナ! ミーナ! 無事か!?」
村に着くと、お父さんがすっ飛んできた。
ハクおじいちゃんの子分の梟が先に村に知らせてくれたのだ。
わたしとミーナはぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「く、くるしいでしゅ」
「お父さん、大丈夫だから力抜いて~」
内臓がはみ出そうだ。
男たちは、今日は村長宅でお世話になることになった。
わたしとミーナはもう帰って良いと言われたので、当初の予定通りミケさんのお家に行くことにした。お父さんには先に帰ってもらった。こちらのことを凄く気にしていたが、これから行くのは子どもを生んだばかりのミケさんのところだ。人数が多いと気を使わせてしまうだろう。
村長の家からしばらく歩くと、こぢんまりとしたミケさんの家に到着する。
ミケさんは少しやつれていたが、凄く幸せそうな笑顔で出迎えてくれた。
「ミケさん、出産おめでとうー。もう起きて大丈夫なの?」
「えぇ、大丈夫よ。来てくれてありがとうね」
「ミケしゃん、おめでとうでしゅ」
わたしとミーナで一緒に花束をあげると、とても喜んでくれた。
しかし、マータの実のプレゼントを渡したとき、もっと目が輝いていた。
……まぁ喜んでくれるならいいか。
喜んでくれることが一番だ。
連れてきてもらった赤ちゃん三人はめちゃめちゃ可愛かった。
ふあふあの真っ白な耳にふっくらした頬、小さなシッポがゆらゆら揺れていた。あまりの可愛さにわたしたちは歓声をあげた。
「か、かわいー!! この子たち男の子?女の子?」
「ふあふあでしゅ!」
わたしとミーナはうっとりと仔猫の獣人を眺めた。
「うふふー。可愛いでしょう! 左から男の子女の子男の子よ」
ミケさんが輝くような笑顔で赤ちゃんを紹介する。
三人とも同じ顔に見える。三つ子ちゃんだ。
わたしは赤ちゃんの綿毛のように真っ白で柔らかな毛の耳をちょいちょいと触ってみる。見た目通りふわふわの触り心地だ。
……気持ちいい! 柔らかい! 耳がぴくぴく動くの可愛い!
ほっぺたも触ってみる。すると、赤ちゃんはふんふんと匂いを嗅いで、小さな舌でペロリとなめてきた。
少しざらざらした舌がくすぐったい。
……ふぉぉー! 可愛い。可愛すぎる!!
わたしはもうメロメロだ。この世にこんな可愛いイキモノがいていいのだろうか……いいな。幸せだ。
そんな風にうっとりと触っていたら、袖をクイクイっと引かれた。
「おねーたん、ミーナもー!」
「わかったわかった。強く触っちゃダメよ?」
「あい!」
目をキラキラさせたミーナと場所を交代する。わたしに言われた通りにそーっと触っているミーナも可愛い。天使だ。
わたしたちはそれぞれちょっとだけ触らせてもらい、存分にうっとりと眺めてから家に帰った。
「ただいまー」
「ただいまでしゅ」
家に入ったら、お母さんとお兄ちゃんが心配そうにこちらを見ていた。
「お帰りなさい。ニーナ、ミーナ」
「さっきお父さんに聞いたよ。怖い思いをしたんでしょ? 大丈夫?」
二人は優しく頭をなでてくれた。
「うん。大丈夫だよー」
「へーきでしゅ!」
ミケさんのところで可愛いもふもふたちを触ったわたしたちは、先ほど起きたことなどすっかり忘れていた。むしろ今思い出した。
心配かけてしまって申し訳ない気持ちと、心配してもらえて嬉しい気持ちが同時に湧き上がる。
ぎゅっと抱きついたわたしとミーナをお母さんは優しく抱きしめ返してくれた。
……お母さん、あったかいな……。
しばらくわたしとミーナはお母さんに甘えさせてもらった。そして、すぐに夕食の時間になったのだが、今日の晩ごはんはわたしとミーナの好物ばかりだった。お母さんありがとう!
今日は少しだけ怖い目にあったけど、でも楽しい一日だった。
……あぁもう、ふわふわの仔猫って超可愛いよね!
思い返すだけで心が楽しさで踊る。二度目の人生で子どもの身体に戻ったからか、毎日が新鮮に感じられてとても楽しい。
前世とはまったく違う世界だが、家族の温かさは変わらない。それが、とても幸福なことだとわたしは知っている。
こうして、感謝を胸に、幸せな気持ちのまま今日も一日が終わったのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。