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新章突入、ここから始まる新展開。伝説のから揚げを巡る油滴る冒険の幕が上がる…
『右、いや、そこか…俺から逃れられると思ったのか…』
この熱気、気を抜いたら火傷は必至…
『揚。これを使え』
先輩からのアイテムが投げられる…
『駄目です。先輩、目が放せない…これは魅了の魔法か』
『揚、しっかりしろ。俺がそいつを受け持つから、離れるんだ』
『それはできません。先輩、先に、先に行ってください』
強大な敵を前に僕等はどう戦えばいいんだ…
黄金色の肉体、照りつける太陽、大小様々な姿の奴らはお互いを守りあうように密集してこちらを威嚇しているようだ…
見極めないと、ギリギリのラインを…僕の左手に先輩から渡された槍が動きだすときを待っている。
『あなたたち、なに暑苦しいことやってんのよ』
『何だ、梅子じゃないか』
『狩野、名前で呼ばないで頂戴』
『すまんな梅子』
『……もう、いいわ……梅子で…』
この間の一件で2人の仲は深まったようだ、良かった良かった。そんなことはどうでもいい。そう、後は勝手にやっててくれれば僕には関係ない。先輩達お幸せに、OK。
『今。この瞬間こそ待ちに待ったタイミング。煌け竹串、狙いは中央』
深々と黄金色の肉体を貫きそのまま奴の体を吊り上げる、こちらに引き寄せ一気に攻める。
『先輩、まだちょっと早かったようですね。軽く火傷しました』
『揚、お前は猫舌風味なんだから無理はするなといったじゃないか』
『いけると思ったんですがね、肉汁分が誤算でした』
『から揚げの君って猫舌なの。揚げ物好きなのに、ちょっとかわいそうね。揚げたて最高なのに』
『そうだよな梅子。俺が買ってやってすぐ食べないから目の前で熱々食べてやったら揚の奴むきになって「ギリギリを狙います」とか言うから。止めたんだけどな』
『結構子どもっぽいのねから揚げの君…』
『そうなんだよな…』
不愉快、不愉快ですな。
『残念な梅子先輩、訂正を要求します。僕は猫舌ではなく、猫舌風味なので一緒にしないでいただきたい。さーらーに、から揚げの君という呼び名はセンスのない狩野先輩が勝手につけたものなので、油谷もしくは揚と呼んでいただきたい』
僕の近づきながらの発言に後ずさりしながら、
『わかったわよ、油谷。これでいいんでしょ』
『聞き分けのない狩野先輩とは違い理解が早くて助かります。神野先輩』
『いろいろ突っ込みどころが満載だが』
『突っ込みが迷うとボケが死にますよ。神野先輩も相方の突っ込みがこれではこれから先が思いやられますな』
『そうなのよ、せっかく私がボケても狩野じゃ活かしきれないのよってなんでそうなるのよ』
うむ、これはボケと突っ込み入れ替えですな。
『2人の立ち位置チェンジで』
『『コンビじゃないから』』
息ぴったりなのになぁ。2人でごちゃごちゃ言い合ってるから先行くか。
舌のピリピリを避けるようにから揚げを食べる、舌先は甘みと塩味を感じやすいそうだ、それでもから揚げのおいしさは変わらない、素敵に無敵。どっかで聞いたようなフレーズだな。
まだ5月の連休前だというのにこの暑さ…春はどこに、カエルさんが心待ちにしている梅雨はどこに…僕はすぐ秋でもいいけどね。
5月といえば遠足か、どうにかして休めないだろうか、そもそも高校生に遠足がいるのかね。
人は群れる、所詮動物…エリート意識があっても、成績が良くても孤高でいられる人間はそう多くない。それは良いも悪いもない、自然なことさ。
僕には当てはまらないけどね。
このAクラスでもだいぶ集団が形成されている。連休の予定、その後の遠足の話題が教室のトピックだね。
それにもうひとつの話題が担任より投下される…そのときは知らなかったよ孤高の存在だと思ってた僕が人間という動物でしかなかったということを。
ああーなんでこんな中途半端な時期に転入生…しかも、特別な生徒…本人はいい子だと思うけど。目立つ子は周囲への影響が強い、問題起きなきゃいいけど、気が重い…
『明日から連休だが、この5月よりこのクラスに転入することになった水谷君です。自己紹介をどうぞ』
静かに教室の扉が開き小柄な女の子が入ってくる。教室の反応は真っ二つだったよ。
『かわいい、天使のようだ』的な男子勢。
『ちょっとかわいいからって、男子騒ぎすぎ』と気分悪いわ的な女子勢。
ん、僕の感想だって。白い、かな。
制服がまだ無いのか、真っ白なワンピースに白い靴下に白い靴、感想は白い。
『騒がないで、自己紹介ができないでしょう』
担任の促しに徐々に静かになる教室、恥ずかしそうにうつむいた少女から姿にぴったりのかわいらしい声が紡ぎだされる。
『水谷檸檬です。パテェシエ修行をしています。皆様よろしくお願いします』
『水谷さんは将来有望な職人さんの卵で大きなコンクール等でも優秀な成績を収めている子です、みんな仲良くするように』
男子の弾む『ハーイ』と対照的に低く渋い『はーい』と女子の声…波乱を感じるね。巻き込まれないようにしておくとしよう。
ん、なぜだ、皆から視線を感じる…
白い子がこちらを穴が開きそうな勢いで真っ直ぐ見つめている。
僕を貫くのは容易ではないよ。なんて冗談を言っている場合じゃなさそうな雰囲気…
男子も女子も白い子の行動に何事かと興味津々の様子、そんなに人のことが気になるかね、ごくろうさん。
とはいっても、このままも居心地が悪いな。僕は思い切って声をかけてみる。
『無言で人を見つめるのはいい趣味とはいえないね。言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだい』
突然の声かけに白い子はビクッと体を震わせる…再度顔を上げ意を決して口を開いた。