表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
から揚げの君  作者: SSS
4/20

4

から揚げの余韻に浸っていると時を告げるチャイムが鳴る。


入り口の扉を開けて新学期なのに気だるそうに入ってくる人が一人。


『ホームルーム始めます。今日からこのクラスの担任の佐藤猛です。一年間問題を起こさないようにお願いします』


丁寧な物言いに、控えめな態度、そしてハッキリとした生徒へのメッセージ。

きっと、好きな言葉は【安定】とか【平凡】に違いない。名前に込められた思いを全否定しているような立ち振る舞い、なかなか面白い…


『いつも新学期によくある質問には先に答えたいと思います。年齢は40歳、独身で両親と住んでいます。専門は数学、運動は好きではありません。趣味は昼寝です。それ以外で質問がある人はどうぞ』


静まり返る教室、まあ、それぐらい押さえといたら特に無いよね。なかなかやるね。


猛先生は教室をキョロキョロ見回して僕に目を留めた。

『質問でもありますか』


僕は上げた手を下ろして尋ねる。

『から揚げはお好きですか』

『人並みには好きです』

『ありがとうございます、先生』


味方でも敵でもない、いい位置関係でいられそうだね。



僕らのやり取りに若干引き気味のクラスメイト達。とはいってもメイトって寄せ集められたのにメイト。受験になったら競争相手なのにメイト。不思議なもんだね。

乗り合いバスと一緒なのに…


マニュアル通りの連絡事項を滞りなく消化して先生は教室を後にしていった。



結局は1年生の時と授業内容が変わるだけ、特に僕の生活に大きな変化は無いね。

1日の授業が終わり、部活動に所属していない僕は家に向かって歩くだけ。でも一点注意が必要なんだ、時々校門のところで番長活動している先輩がいるからね。


校庭に出て校門を見てみる、あちゃー、さすが新学期初日。

先輩を筆頭に頑張って行こう見たいな事を帰る生徒に声かけている。部活動の勧誘の邪魔になってるのに、気づいていないな。まったく先輩は…


歩いて近づく。

『よう、揚じゃねーか。お前も一緒にやらないか』

『先輩、つまらない駄洒落を言っている場合じゃないでしょう。部活動の新人勧誘の邪魔になっていますよ』


辺りを見渡す先輩の表情が硬くなる…


『一同、解散』

番長グループが蜘蛛の子散すように去っていく。先輩は周囲の部長達に頭を下げて回っている。それを横目に校門を出て、桜並木の下を進む僕。


『今夜は神社にでも行こうかな』

『よし、行こうぜ』

『嫌です。いつの間に僕の後ろに。先輩は暗殺者ですか』

『部長達に謝ったら、みんな親切にお前が先に行ったって教えてくれたもんだから気配を消して全力疾走よ』


何か、間違っている。何かどころかかなり違う気がする…まあ、考えてもしょうがないね。


『何時集合だ。ん、そんな顔しないでもいいだろ』

『引く気は無いですよね…先輩のことだから。じゃあ、18時に神社の鳥居ではどうでしょうか』


『OK、無いとは思うがすっぽかすなよ』

変なところで鋭いな…


『わかりましたよ。釘を刺されてはしょうがないですね』

『危ない危ない。やっぱりすっぽかす気だったか。まあいいや後でな』


走り去る先輩の後ろ姿に新たな釘を刺しておく。


『学校じゃないのでその格好はやめてくださいよ』


わかったわかったとこちらを向かずに手を振りながら帰っていく先輩、大丈夫だろうか…

まあ、恥ずかしい格好だったら全力で無視しよう、よし、そうしよう。


今年もあのから揚げ屋台のおっちゃんいるといいな、思い出すだけで口から情熱が溢れそうだね。



この地域で一番大きな神社が油神神社ゆかみじんじゃ。春の花見の時期とお盆の夏祭りの2回は広い敷地に屋台が立ち並ぶ大きな祭りが開催される。

僕の目当てはただ1つ、いつも外れの方で店を開いている、どこからどう見ても普通の道ではない人なんだが、そのから揚げはかーなーりーの一品…

店主の風貌がもう少し普通であったなら毎回端にはなっていないだろうに…

僕的には人が少なくて買いやすいからいいのだけれどね。


年2回の楽しみだよ。




おっと、とにかく帰るとしよう。夕飯に間に合わないといけないからね。



『ただいま、ママ。今日は先輩と油神神社のお祭りに行くから』


『あら、そうなのじゃあ夕飯はいつもよりちょっと早めにするわね』

『頼むよ。そういえばちちはどうしたの』


『俺に用か、揚』

『ちち…親父だけど親父ギャグは寒いよ』


うちの両親は普通だと思われる。年相応の話し方にちちはごく一般的な会社員。ママは近所のスーパーでパートで働いている。二人ともスタイルのいい贔屓目無しに美男美女夫婦だと思うね。


『あなた、私達もお祭り行きましょうか』

『いいな、たまには一家揃ってというのも。じゃあ夕飯は無しでいいな』

『揚の分だけ用意するわね』


食べる量も普通の両親、理解ある両親に僕は感謝の言葉しか見つからないね。


『揚、お前にこれを授けよう』

僕は両手を差し出しちちの前で頭を下げる。


『ありがたき幸せ、いつも感謝しております』

『うむ、有意義に使うがよいぞ』


祭りの時は昔から追加のお小遣いを貰えるんだ、僕はそこまでお金に困ってはいないけれど我が家の儀式のようなもの。ありがたく受け取るのも子どもの役目だね。


『揚、ご飯できたからどうぞ』

『ありがとう、ママ。いただきます』


ママはさすがにわかっている。僕の話を聞いてから夕飯をあっさり白身フライに変えるなんて最高。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ