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神は死んだ?
僕は聞きたいね。そもそも、神なんているのかい?
誰か答えてくれるなら話を聞くよ、から揚げでも食べながらね。
神様、私は今日も頑張りました。いつかきっと、あの時の男の子に逢わせてください。
お願いします。きっと、彼が私の運命の人…
世界は、不条理に満ちている。神を信仰し、心に安らぎを求める一方で、自分の信じる神以外を排除しようとする…
世界は徐々に神への信仰を手放していった。
でも、人は弱い、弱すぎる…
見えない神を信じなくても、心に支えが無くては生きてはいられない…
それぞれが、自分の信じるものを信仰するようになる。
同志がいればそれらは集まり、集団に変化していく。
結果は同じこと、対象が変わるだけ…結局、世界は不条理。
思考、信仰、自己、闘争の果てにしか満足は無いのかもね。
桜の花が綺麗に咲き誇りそしてはらはらとその花を散らせている。僕はいつもの様に通いなれたこの道を今日も歩く、汗が気になる今日この頃。真新しいかばんや制服に着られちゃっている人達を見ると一年前の自分を思い出すようだね。
『おーい、今日も食ってんな。から揚げの君』
『その呼び方はやめてもらえないですか。狩野先輩』
この人は1つ年上の狩野信也先輩。何でか気に入られたようで事あるごとに僕に絡んでくる人、僕はそっとしておいてほしいのだけどね…
『もう、お前と会って一年が経つのか、早いもんだぜ』
『本当ですね。そろそろ校門が近いので離れてもらえませんか』
『いいじゃねーか。いつも通り一緒に行こうぜ』
せっかくの新年度なのに、困った人だ…悪い人ではないんだけどね…
『『『『『『『 番 長 おはようございます 』』』』』』』
ああー新入生がどん引きしているよ。
狩野先輩、今時番長とかやっちゃてる人で2年の時にはこの学校のトップになっちゃうような人。その上成績も学年上位、見た目もかなりかっこいい、何を間違えたら番長やろうと思うのか僕にはわかんないけどね。ボロボロの学ランとか何の役にたつのかな。
『お前ら、新入生が困ってないか、しっかり観察しとけ。いいな』
正面の門の左右分かれたに人の道が出来上がる。僕はその間をから揚げを食べながら先輩と進んでいく。
始めは横に道を変えようと思ったけど、なんで僕が進路を変えるのか、必要ないね。
僕はただから揚げを食べながら登校するだけ、それ以外は大した問題じゃないからね。
一年間、先輩に捕まった時はこの人の道を通って学校に入ることになっていた。この騒がしさもスパイスかって思うことにするさ。
から揚げの君…こいつと出会って一年、俺は真に強い男を知った。
出会いは最悪で最高で、静かな振る舞いに熱い情熱を俺にガンガン与える出会い…
桜咲き誇るこんな日だった…
当時の俺は、男が男であった時代への憧れから高校になったらデビューすると中学の頃から心に決めていた。
会社の跡継ぎである俺は幼少の頃から厳しい教育を受けていて学校の勉強など子どものお遊び程度のこと。片手間でも十分だった、同世代の子どもと遊ぶことも少なく、俺の身に纏う雰囲気も手伝って浮いていた…
高校デビューは俺をがっかりさせるものでしかなかった。あれほど夢に見た、男同士の熱い友情も、ライバルとの切磋琢磨も、すべては夢物語…
俺のライバルになるような奴は皆無…当たり前のように学校のトップになった俺…
2年になり虚しい日々に絶望しかけた時、俺は油谷揚、俺が命名した【から揚げの君】との出会いが俺を変えるきっかけをくれた。
『おい、そこのお前、新入生の癖に初日から買い食いとは感心しねーな』
虚しい日々に荒れていた俺は新しい制服を身に纏い、から揚げを食べながら歩くあの男にあった。
小柄なデブ…それが奴の第一印象だったな。
喜びに満ちた表情、幸せの雰囲気をから揚げの香りと共に漂わせてゆったり歩く姿。
今思えば俺は嫉妬していたんだろう。つまらない日々を過ごしている俺には奴は眩しすぎた。
『あなたには関係ないことでしょう。僕とから揚げの時間を邪魔しないでもらいたい』
『なんだと、それをよこせ』
俺は奴のから揚げを強引に取り上げた…それがどんな意味を持つのか知らずに…
僕がこの学校に入ることになったのは大して意味は無かった。
たまたま、受験高校を決めるためにいろんなところに説明会に行った時に駅前にあるお肉屋さんのから揚げがおいしかった。それが理由さ…学校自体には大して興味はないんだよ僕はね。
今思えば、あのから揚げとの出会いが僕の分岐点だったんだね。
から揚げには神が宿っているのかもって。僕らしくもないことを考えたものだよ。
先輩との出会いも今思えば悪くなかったね。いいスパイスだと思える、今ならね。