美味しいサツマイモ
「くぅちゃん、朝ご飯できたからおいで」
朝ご飯ができたと言って部屋に私を呼びに来たあっくん。私は後を追ってあっくんと一緒に大広間へと向かう。
大広間には既に組員の皆が集まっていた。私とあっくんが自分の位置に腰を下ろすと、号令係が手を合わせて「いただきます」といってから、それに続いて皆も手を合わせて「いただきます」をした。
今日の献立は豆腐とわかめのおみそ汁にさんまの塩焼き、それにきんぴらごぼうと白米だ。ゆっくりもくもくと食べ進めていると、右隣に座っている清生信彦さん、のぶくんが私に話しかけてきた。
「おおう、玖々李。お前相変わらず食うのおせぇなあ」
そう言うのぶくんは、もう食べ終わるところだった。
「のぶくんが早いんだよ」
「ああ?確かに俺ぁちょいと早食いかもしれんけどなぁ、玖々李は遅過ぎだわ」
いいながらみそ汁を一気に流し込んで、がっはっはと笑うのぶくん。……別に遅くないもんね、私。周りの皆だってまだ食べ終わってない人の方が多いし。
それでも少し張り合って、ご飯を口の中にかきこんでみる。
「……ッ! ごっぼ、げほっげほ……」
結果、喉に詰まらせかけてむせた。
うう、苦しい。涙出てきた。
そんな私にのぶくんはまたがっはっはと笑って、背中をバシバシ叩いてきた。ちょ、痛い痛い!誰か、助けて!
願いが通じたのか、周りが助けてくれた。ただし笑いながら。
「おいおい信彦、それくらいにしといてやれよ」
「玖々李が死んじまうわ」
その声にのぶくんは、最後に一発バシッと私の背中を叩くと「玖々李はそんなに柔じゃねぇよ」と笑っていた。
いや、柔ですから!私、五歳の少女ですよ!?少なくとも中年のおっさん、のぶくんよりは柔だよ。か弱い女の子なんだよ。
少しむくれながらきんぴらごぼうをつついていると、今度はあっくんが話しかけてきた。
「ご飯食べ終わったら俺の部屋においでね。」
私はゆっくりご飯を食べ終えて、あっくんの部屋に行った。
するとあっくんは座卓の上を見ていた顔を上げて、にっこり笑ってちょいちょいと手招きをした。それに応じてあっくんのあぐらをかく足の間に身体を滑り込ませる。
「あっくん、今日は何するの?」
私は後ろを向いてあっくんの顔を見上げながらいった。
「とりあえず、五十音を一個ずつ書いてみようか」
「はあい」
返事をして、座卓の上の紙に鉛筆を握る。あ、い、う、え、お、その次はえっと……か、き、く、け、こ。
五十音全部書き終わると、あっくんは私の頭を撫でてくれた。
「最初と比べてずいぶん綺麗にかけるようになったね。じゃあ次は自分の名前を書いてみよう」
「うん」
私は、はいたにくくり、と平仮名でかいた。漢字ではまだ上手くかけないのだ。
「できたよ!」
「うん、よしよし」
そう言うと、また撫でてもらえた。
私は一ヶ月くらい前から、あっくんとお勉強をしている。なんでも、私は他の子供たちのように保育園や幼稚園にいってないから、家でお勉強しないといけないらしい。来年小学校に入学するために。
あっくんとのお勉強は楽しくて好きだからいいんだけどね。
それから簡単な漢字を書いてみたり、たし算をしたりしていた私。すると、ふすまがノックされた。
あっくんが「はい」と返事をすると、ふすまが開かれる。そこに立っていたのは宮地天馬さん。私は天馬くんと呼んでいる。
「彰、お前もしかしてさ、今日サツマイモ使うつもりだった?」
どこか申し訳なさそうな表情で聞いてくる天馬くん。
「そうだけど?」
「いやぁ……さっき皆でさ、その、焼き芋やったんだけど……」
「まさか、全部食べたとか言わないよね」
「う、ん。いや、そのまさかというか、なんというか」
「はぁ、ありえない。お昼にサツマイモのレモン煮作ろうと思ってたんだけどな」
「っえ」
思わず声が出た。
でもサツマイモのレモン煮って私の大好物じゃないか。でも今の会話からすると、サツマイモがなくて作れないみたい……ショック。
「あわわ、玖々李ゴメン! ちょ、今から買ってくるから!」
負のオーラを出して沈んでいると、天馬くんが慌てた様子で言ってきた。するとあっくんが少し黒い笑顔で天馬くんに話しかける。
「当たり前だよね、俺が買っておいたものを勝手に食べておいて」
「っぐ……いや、でもやろうって言い出したのは相希さんで」
「言い訳するの」
「……買ってきマス」
「うん、行ってらっしゃい」
「いってらっしゃい!」
私とあっくんに見送られて、天馬くんは組員の数人を引き連れてサツマイモを買いに出かけていった。一体何個買うつもりなんだろう?
その後大量にサツマイモを買い込んできた天馬くん達。おかげで無事、お昼にサツマイモのレモン煮を食べる事ができた。お皿に山のように盛られているのを、組員の皆がガツガツと食べている。
うん、やっぱり甘くて美味しいな。私は口いっぱいにサツマイモを頬張って幸せな気分に浸っていた。




