15 黒神の少年は精霊と出会う
大変長らくお待たせいたしました。
無断で長らく投稿せずに大変申し訳ございません。
Sideカイト
そして夜が明け、朝日が出てきた頃にハクとカレルがテントから出てきた。
「おはようございますご主人様。」
「おはようカイト殿」
2人とも疲れが残っているというわけでもないようで、普通に挨拶してきた。
「おはよう、ハク、カレル。」
さて、いよいよ今日は精霊の祠へ到着する予定だ。
正直精霊と言うものに会ったことがないので楽しみだ。
・・・いや、昨日の出来事を忘れたいだけなのかもしれないな。
すると、ハクが焚き火の周りに座っていた俺の背中から抱きついてきた。
ハクのかすかに甘い匂いが俺を包む。
「ご主人様?昨日から何か怖い顔をしています。どこか具合でも悪いんですか?」
ハクは俺を心配してくれてたみたいだ。
・・・そうだな、家族に隠し事はダメだよな。
俺ははじめての人殺しで動揺していたことを、素直にハクに話した。
「そうだったのですか・・・。ご主人様が住んでいたところは、多分人殺しなどしなくても良い、とても素晴らしいところだったのですね。」
そうだな、日本で人殺しなんてすることはないし、そんな奴はすぐに捕まって法のもとに裁かられる。
・・・だがこの世界は違う。
大切なものを守るためには障害となるものを排除しなければならない。
それが人ならば・・・殺さなければならない。
ここはそういう世界だ。
日本と比べて人の命がとっても軽い。
罪を犯したら殺されても文句は言えない。
そんな世界だ。
どうやら俺の覚悟は甘かったらしい。
俺はもう迷わない。
家族のためならば人殺しだってしなければならない。
・・・これで割り切れたわけじゃないが、幾分かは心構えが出来たのではないだろうか?
「・・・ありがとう。ハク。」
俺はハクを優しく、しかし決して離れないようしっかりと抱きしめた。
「は、はい。私でお役に立てることならばいつでも行ってください///」
俺はしばらくハクを抱きしめていた。
すると、
「う、うぅん!!」
カレルが顔を赤らめて、わざとらしく咳払いをした。
「き、君たちは他人の目と言うものを気にはしないのか?」
「他人の目って・・・カレルしか居ないし。」
「そうですね。カレルさんしか居ませんし」
俺とハクはそうカレルに返した。
するとカレルはもじもじしながら、
「・・・わ、私だっていつかは・・・///」
・・・カレルさん、聞こえてますよ。
どうやらカレルは夢見る乙女だったみたいだ。
しばらくハクを抱きながら、カレルの赤面を眺めていたかったが、そろそろ行くことにしよう。
「2人とも、そろそろ精霊の祠へ出発しようか。」
俺の声を聞いた二人は、各々準備へと取り掛かった。
さて、俺もテントとか片付けようかね。
そうして野営地を片付けたあと、1時間くらい森の中を歩き続けると、ちょっとした広場に出た。
広場と言ってもそこまで広くなく、せいぜい人が4〜5人くらいがくつろげる程度の広さだ。
その広場の中心には記念碑のようなものが鎮座していた。
その記念碑のようなものが精霊の祠そのものだとカレルが言う。
「なんともまぁ・・・。」
俺はそんな言葉を口にしてしまった。
しかし、そう思ってしまうのも仕方がないだろう。
精霊と聞いて、どんな面白い建物があるのかと思えば、俺の背丈ないくらいの記念碑があるだけ。
・・・ちょっと残念。
「それで、カレル。精霊の祠へついたが・・・どうするんだ?」
俺はカレルに尋ねる。
「・・・。」
カレルは答えない。
・・・まさか。
「カレル、もしかしてだが・・・何も聞いていないんじゃないか?」
頼む、これは外れていてくれ。
いくら鈍感なカレルでも、これくらいは聞いてきているのだろう。
「いや・・・そんなことはないのだが・・・。」
そんなことはないのだが・・・。
なんだ?
「精霊様と会えと言われてきたのだが・・・。精霊様とどう会えば良いのかわからん。」
おっと、これはどういうことだ?
カレルさんやどういうことだい?
お主はアホの娘か!?アホの娘なのか!?
普通は会う方法を聞いてくるだろうに!
なぜに聞いいてこないし!
あれか?あれなのか?
姫さまに任務与えてもらった〜ヒャッフ〜。
・・・あ!やり方教えてもらってないテヘペロ(・ω<)
って落ちかオイッ!!
「・・・ハク何か知らないか?」
俺はアホの娘は放って置いて、ハクに尋ねる。
「・・・そ、そうですね。私が住んでいたところでは、精霊は魔力に反応すると教えられてきました。・・・見たところここは風精霊の祠みたいなので、風の魔力を辺りに撒いてみたらどうでしょう?」
お、おう。
ハクさん優秀。
思わず抱きついて頭ナデナデしてしまったではないか。
「は、はぅうううん///」
ハクは頬を赤らめて俺の腕の中でくねくね動いている。
とっても嬉しそうだ。
「・・・すまぬ。」
カレルが落ち込んだオーラを纏いつつ謝罪してくる。
・・・まぁそこまで落ち込んでいるなら次は失敗しないだろう。
「次はしっかり仕事内容把握してこいよ?」
俺はしっかりと釘を打っておく。
「は、はい・・・。」
さてと、風の魔力を辺りに撒いてみるとしますかね。
俺は風の魔力を体から放出し始める。
ちなみになんで風の魔力がわかるかというと、森に居た頃に、魔力察知を使っていた時に、魔力に複数の色が混ざっているのに気づいたんだ。
それで色々調べた結果、体の中にある魔力は色々な属性の魔力が合わさっている状態だということがわかったんだ。
そこで、純粋な魔力だけ取り出せないかな〜と思ってやってみたところ・・・出来ちゃいました。
それで、その純粋な魔力だけで属性魔法を使ってみたところ、いつも以上の威力になってしまい、危うく森を更地にするところだったよ。
ってなわけで、風の魔力だけを辺りに撒いてみた。
すると・・・。
『わぁ〜。美味しい魔力だぁ〜。』
という声と同時に、記念碑の上に腰掛けるようにして、一人の少女が現れた。
その少女はとても可愛らしかった。
髪の毛は薄い若草色。
その髪はツインテールに結われている。
身長は・・・座っていて正確には分からないが、だいたいハクと同じくらいだろう。
目はぱっちり二重で、深い緑色。
口元はずっと口角が上がっている。
身に着けているワンピースは髪と一緒で若草色。
若干髪よりは濃いかなくらいだ。
俺の第一印象は野山を駆け回っている元気一杯な美少女だ。
『あなたがこの魔力をくれたの?』
少女は俺の目を見ながら話しかける。
「あぁ、そうだ。」
俺は答える。
『あははっ!ありがと〜!』
そう言うと少女は浮き上がり、俺の周りを飛び回り始めた。
『美味しい魔力〜。美味しい魔力〜。』
どうやら俺が撒いた魔力を気に入ってくれたらしい。
「なぁ、君名前は?」
『名前〜?う~ん。前にここに来た人間さんがね〜”シルフ”って言ってたよぉ〜』
・・・風の精霊シルフ。
俺が知っているゲームにも出ている大精霊。
それが彼女だというのだろうか?
・・・今はそのことは置いておこう。
「シルフ、頼みたいことがあるんだが、良いか?」
俺はシルフに話しかける。
本来はここはカレルの出番なのだが・・・。
とうの本人はシルフが出てきてから固まってしまっている。
ハクは俺にぎゅっと抱きついたままだ。
・・・良い匂いが。
ハッ!いかん。
『お願い〜?う~ん。美味しい魔力くれたから聞いてあげる〜!』
どうやら聞いてくれるみたいだな。
「俺達に、精霊の涙っていうのを譲ってほしんだ。」
『ん、良いよ。はい。』
そう言って少女は俺の目の前で止まった。
そして俺に向かって手を差し伸べた。
そこには無色透明の、涙のような形をした水晶のようなものがあった。
「これがそうなのか?」
『うん、そうだよ〜。』
・・・なんか会話が軽いな。
まぁ良いか。
これでカレルの仕事は終わりだな。
「ありがとう、シルフ。」
俺はシルフにお礼を言い精霊の涙を受け取った。
『どういたしましてぇ〜。ところでさ、私と契約しない?』
・・・?
契約?
『契約すると、いつでもどこでも私を召喚できるよ!私一緒に行きたい!』
っと、どうしましょうか?
う~ん、困った。
「ハク、これはどうしたもんか?」
困った時のハクさんだ。
「そうですねぇ、精霊と契約するというのはとっても大変だと聞いたことがあるのですが・・・。それはまぁ、ご主人様だからとしか・・・。」
ハクさんや、俺を傷つけさせないでくれ・・・。
「精霊は神聖な存在ですので、人に危害を加えたりはしないので、ここは契約したほうが良いと思います。」
そうか・・・。
まぁ聞いた所悪くはなさそうなので、契約することにした。
「シルフ、契約するにはどうすればいい?」
『ん?契約の誓いをすればいいんだよ。』
そうシルフが言うと、頭の中に文章が浮かんできた。
おぉ、直接頭に叩き込んでやったぜ。
・・・みたいな?
「それじゃあ・・・。」
俺は頭の中にある文を読み始める。
「契約の名のもとに、汝風の精霊シルフに命じる。我カイト=クロバと契約を交わし、剣となり盾となれ。」
うわぁ、厨二病乙。
『我風の精霊シルフは汝カイト=クロバを主人とし、剣となり盾となろう。』
誓が終わると、俺とシルフを囲むように風の魔力が集まってくる。
しばらく魔力はとどまり、緑色に光ると、スッと消えていった。
『これでどこでも私を呼べるようになったよぉ。』
と言われてもなぁ・・・。
「具体的にどうすればいいんだ?」
『私の名前を呼ぶだけ〜。』
そんだけかいっ!?
そんな簡単でいいのかよ。
まぁ、なにはともあれ、無事精霊の涙を手に入れてシルフと契約できたな。
はぁ、これからどうなるんだろうな。
俺はそう思いながら家路へとつくのだった。