08 黒神の少年は初めての依頼を受ける
Sideカイト
「あぁ、忘れてた。はいこれ防具」
「へ?あ、ありがとうございます。」
俺は空間魔法のアイテムボックスから、青白い色・・・と言うかほぼ白をした金属製の軽装備一式をハクに手渡した。
この防具は俺が作った特注品で、素材はミスリル。
デザインも凝った。
ハクに似合うように造っていくのは大変だったのだが・・・。
実際に着ているハクを見ると、造ってよかったと心の底から思える。
ハクの魅力を引き立たせるように装飾は最小限。
それを着ているハクからは神々しさというのだろうか?
美しさ、可憐さ・・・そのような言葉では表現できないほどだ。
さながら戦乙女のようだ。
「な、なにかとてつもない力を感じます・・・。」
「まぁ、俺が造ったしねww」
ぶっちゃけ神器みたいなものですしねww
色々くっつけましたよ、そりゃあもう。
「ご、ご主人様お手製ですか・・・。」
ちなみに俺の装備は黒一色。
黒の着物と金色の刺繍が入った帯。
靴は”ブラックドラゴン”の革で作った革靴で、黒に金色のラインが入ったマフラーをつけている。
マフラーはただのカッコつけ。
まぁ、性能は半端ないけど・・・。
腰にはいつも通り黒と白の刀を差している。
準備は万端、いざ出陣じゃ!
「それじゃあ行こうか。」
「はい!行きましょう!」
「ってことで、ハク俺の手を握ってくれない?」
「え?わ、わかりました。」
クビをかしげながらハクが俺の手を握ってくれる。
あぁ、柔らかくてすべすべしてて気持ちが良いな。
・・・じゃなかった。
”転移”
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時空魔法:転移
・上級時空魔法
時空魔法の奥義。
自分が行ったことのある所へ一瞬で移動することが出来る。
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俺が念じただけで魔法が発動する。
街の門から少し離れたところで魔法を使ったので気づかれては居ないだろう。
転移したのは魔の森だ。
”ゴブリンキング”は魔の森の東側、つまりはナギルの街の反対側に巣を作っている。
「え!?何ですか?」
ハクが慌てている。
オロオロしているハクはとてつもなく可愛い。
今すぐ抱きしめたい衝動を抑えつつハクに説明する。
「とりあえず、落ち着こうかハク。大丈夫かい?」
「は、はい。ご主人様といるとビックリしすぎて感覚が麻痺しそうです・・・。」
「ま、まぁそこはご勘弁。とりあえず説明すると、ここは魔の森のなかで、ここから数十分歩いたところに”ゴブリンキング”がいる。ここまでは俺の魔法で転移してきた。ここまでは理解できた?」
「は、はいなんとか。」
「それじゃあ出発しようか。」
俺はなにか疲れた様子のハクを連れてゴブリンキングの元へ向かった。
歩くこと数十分。
ゴブリンの巣のような場所へ無事たどり着いた。
「ありゃりゃ、こりゃあなんとも立派な巣だね。」
目の前には大きな洞窟があり、その周りには所狭しと小さな小屋などが建てられている。
小屋は多分ゴブリンたちの家なのだろう。
ノルダムのゴブリンは人を食べる。
女性を繁殖の道具には使わないそうだ。
ノルダムの魔物はすべて大気中にある魔力から作られる。
よって繁殖行為などはしないらしい。
「う~ん、この規模だったらハクの腕を調べるのにはちょっと難しいかな?」
何分規模が大きすぎるため、ハクが怪我をする可能性が高すぎる。
「よし、ハク。今日は俺の援護でいいや。あんまり無茶はしないで、後方で弓を射ってくれ。」
「は、はいわかりました。」
どうやら緊張しているようだ。
まぁそうだよな、いきなりSランクの依頼受けるんだからな。
そりゃあ誰だって緊張するわ。
「ハク、大丈夫だよ。俺がいるからハクが怪我することないし、さくっと終わらせてくるよ。」
俺はハクを抱き寄せて、耳元で安心させるようにつぶやいた。
「///は、はい!で、ですがご主人様にもしものことがあったら・・・。」
あぁ、俺の心配してくれるのね。
なんて優しい娘なんだろう。
「大丈夫。ハクが信じて待ってくれるんんだったら、俺は必ずハクの元へ帰ってくるよ。」
これは一種の誓いだ。
自分もハクも、これから増えるであろう俺の大切な人達を守ると。
流石に全ては無理だろうけど、出来る限り自分ので生きることで守っていこう。
「は、はい。信じて待っています。無事に帰ってきてください。」
そうと言われたらさっさと依頼達成してきましょうかね。
まずは外にいる奴らを一掃するか。
”テンペスト”
そう念じただけで、俺の目の前には大きな竜巻が現れる。
この”テンペスト”は風魔法の中でも上位に入る魔法だ。
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風魔法:テンペスト
・上級風魔法
名前の通り嵐を発生させる。
テンペストに飲み込まれたが最後、無数の風の刃が飲み込んだものを切り刻む
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しばらくすると、ゴブリンたちの肉片や血で辺りが染まる。
外の異変に気づいたのであろう、洞窟の中から大きなゴブリンが出てきた。
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名前:ゴブリンキング
Lv,70
スキル
剣術【Lv,3】 身体強化【Lv,2】 指揮【Lv,2】
称号
蛮族の王
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おっとこりゃあ結構強いね。
サクッとやりますかな。
「ハク、よく見てて。俺がどのくらい強いのかを。」
「はい。」
俺は”ゴブリンキング”の目の前へとゆっくりと歩いていった。
身長は3メーター近く。
ガタイが良い。
さすがは王様、王冠やマントなんかを着ている。
相手の右手には大剣の部類になるであろう、刃の幅が太い大きなクレイモアが握られていた。
目は俺を逃すまいと睨みつけてくる。
「それじゃあしあおうか。」
俺の言葉を合図に、”ゴブリンキング”が突進してきた。
伊達に王様はやってないようだ。
とてつもなく早い。
・・・だが、俺にはかなわない。
俺は突進してきた”ゴブリンキング”を最小限の動作でさけ、交わしざまに片腕を切り落とした。
しかし、”ゴブリンキング”はそんなのお構いなしに俺に斬りかかる。
「随分とタフなのね。」
一思いに一瞬でケリをつけるか。
俺は刀を鞘にもどし、居合の構えを取る。
ゴブリンキングは一瞬あっけに取られるが、そのまま俺に斬りかかる。
が、剣を振り上げ今にも飛びかかろうとした所、動きを止めた。
いや、絶命した。
ゆっくりと上半身が腰からずり落ち、ドンッと音を立てて落ちる。
「ふぃ〜大したことなかったな。」
楽すぎてあくびが出てきそうだった。
「ご、ご主人様お疲れ様です。」
「う~ん、これだったらSSランクの方が準備運動になったかも。」
「は、はぁ。まぁ、私はご主人様が帰ってくるのでしたらもうなんでもいいです。」
ハクはもう突っ込むのはやめたようだ。
「それじゃあ帰るか。」
「・・・はい。」
不完全燃焼ながらも、はじめての依頼は楽しかった。
・・・どこかハクが落ち込んでいると思うのは気のせいだろうか?
まぁ、俺ができることはなにもないのだがな。
とりあえずは色々身の回りを整ええていかないとなと考えながら家路についた俺たちだった。