神殺り物語
【童話パロ企画】に参加致しました。これはかぐや姫です。かぐや姫です。大事なので2回言いました。
タイトルは「かみとりものがたり」って読んでください。
まぁどうでもいいですね。
殺伐としているので、ご注意ください。
時は戦乱。
この地上に神が現れ、次々に人が殺されていく。
そう、神は平和の神でも豊作の神でもない。
―――破壊神だった。
「くっ……わしも出る!ええかげん、若いもんが死んで行くのを見ていられん」
「おじいさん!」
周りは煉獄で包まれ、脂汗を流したおじいさんがクワを持って戦地へと赴く。……だがしかし、相手は神。無情にもおじいさんは死んでしまった。
おばあさんは慟哭した。
「何故!何故なの!どうして神なのに、この世界を破壊しようとするの!許さない!ああ、ああ……おじいさん!」
おばあさんはおじいさんの血まみれの遺体を抱いたまま泣いた。
―――神を憎むか。
幼い子供の声が聞こえた。
周りを見渡しても、周りは竹藪ばかり。この竹藪は神から死角になっているのか、攻撃を受けていないのだ。
……いや、とあるところだけ異常をみつけた。沢山ある竹の中で1本。煌煌と輝く竹があったのだ。
その美しさに見ほれていると、中から白く細いモノが突き破って来た。よくよく見ると、それは刀の刃だった。竹の中から刀が顔を出していたのだ。刀が横にスライドし、竹が綺麗に割れる。いや、割れるという表現はおかしい、竹が綺麗に切り取られたのだ。
そして竹の中から現れたのは、小さく美しい女の子。小さな十二単衣を纏い、艶やかな黒髪を揺らした様は、まさに姫。だがしかし、その姿には似合わぬ無骨な刀をその手に持っていた。
小さな小さな手のひらサイズの少女は、可愛らしく小さなその唇をニヤリと笑わせた。
「もう1度きく……神を殺したいか、ばあさん!」
「―――っ!」
おばあさんはその声と気迫にハッとした。
圧倒的な圧力に思わず吐き気がしてしまうほどだった。あんなに小さいのに、もはやその少女が超上級の剣士である事がすぐに分かった。
ゴクリ……と喉が鳴る。直感で理解した。こいつはとんでもな化け物だと。ここで頷けば、新たなる破壊の支配者が出来上がるだけ……そう思った。だが、ここでのうのうと死を待つのみの人生でいいのか?おばあさんは問うた。否、良いわけがない。望みがあるなら手を伸ばせば良い、理不尽だと思うなら泣き叫べ!神はもういない。破壊の権化のアイツのみ。
「ああ、殺したい、殺したいぞ!」
おじいさんを抱きしめて力強く頷いた。
「―――契約、成立だ」
おばあさんの全身が縛られた気がした。
心臓が鷲掴みにされている、そんなゾッとする感覚だった。これは、終わりの始まりにすぎない―――。
すると、目の前の小さな子供が強く光り輝く。目を覆いたくなるほどの強烈な光が襲い、目を覆う。
光が収まり、目を開くと、あの小さかった少女が大人の女性へと変貌を遂げていた。服も、刀も、その変化に合わせて大きくなっている。幼い少女に不釣り合いだったその刀が、今ではこの女性にしっくりと似合う。
そうだ、これがこの人の本来の姿だったのだ。
「我が名はかぐや―――神殺し、かぐやだ。その名をお前の中に刻め」
かぐやは破壊神を倒す為の仲間を探す事にした。集まった仲間は5人だ。
まず石作皇子。仏の御石の鉢という、釈迦が使っていたという神々しい光を放つ石を持つ男だった。彼はその力で釈迦をねじ伏せ、石をもぎ取ったという。真相は分からない、だが、本当だと感じさせるプレッシャーが感じられる男だ。
遠距離射撃を得意とし、笛を吹き鳴らして石を自在に操る事が出来る。
次に車持皇子。蓬莱の玉の枝を持った男だった。蓬莱の玉の枝とは、根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝の事だ。彼は不老不死なのだという。もう長い間、年を重ねていないのだとか。真偽のほどは定かではないが、彼が持つ回復能力は凄まじいものだった。
和歌を優雅に詠い、仲間の怪我もすぐに塞ぐ事が出来る。
そして右大臣、阿倍御主人。火鼠の裘を所持した男だ。その衣は絶対に燃えないのだとか。破壊神が燃やし尽くした畑を、この衣を身に纏って優雅に歩く。
独特の歌をその口に刻み、仲間を破壊神の熱線から守り抜く。
続いて、大納言、大伴御行。龍の首の珠を所持した男だ。龍の住処に単騎で乗り込み、首を跳ね飛ばしたのだという。その証拠に、煌びやかな珠を持っている。彼はかぐや同様、近接戦闘型で、楽し気に口笛を吹きながら戦う。
血で濡れようが、腕をもがれようが、笑って戦い抜くだろう。
最後に中納言、石上麻呂。燕の産んだ子安貝を所持した男だ。その男はシャナリ、シャナリと扇を打ち鳴らしながら踊る。その間に、仲間の士気があがる。いや、正確には技の正確さと破壊力が増すのだ。あの不思議な感覚は、味わった事がない。
かぐやとその5人の男は破壊神を前にして笑う。今から神を殺すというのに、恐れも何もない。
「なんとバチあたりな……神である我に牙をむくか!」
「これだけ破壊しておいてよく神と名乗れたものよのう」
石上麻呂が、扇をシャナリと鳴らして顔を半分隠す。
「神ならば何をしても許されよう」
「ハン!なら、俺がお前に変わって神とやらを名乗ってやるよ」
大伴御行が楽しそうに臨戦体勢を取り、舌なめずりをする。
「神を名乗るだと……人間はおこがましくなったものだ」
「そのおこがましい人間に、貴方は滅されるのです」
阿倍御主人は半身を衣で隠しながら、クスリと嘲笑った。
「我が愚かな人間如きに殺されるはずもない」
「なんという、愚かな奢り」
車持皇子は軽蔑した眼差しを向けている。
「神である我が奢り……?いうようになったものだな」
「しゃらくせぇ、会話して延命でも願ってんのか?神様よぉ?」
石作皇子が自信をみなぎらせて神を挑発する。
周りが殺気に満ち溢れた。
「なに……!」
「まぁったくその通りだ、なぁ?」
抜き身の刀をくるくる回してかぐやが笑う。
クルリと回して、刀を構えた。
「問答無用で殺し合おうや、なぁ?神様よ」
その言葉で、壮絶な戦いが幕を上げた。
破壊神が熱線を照射して地を抉る。阿倍御主人が衣を展開し、車持皇子と石上麻呂を守る。石作皇子は自らの生み出した石でこれを防ぎ、大伴御行とかぐやは、どうやったのか分からない程のスピードでこれを避けきった。その様子に神が目を見開く。未だかつてこんな人間に出会った事はない。
驚いている間にも、大伴御行とかぐやが目にも留まらぬ速さでこちらに駆けてくる。
「……おのれっ!」
神が今までに腰の刀を抜いた事がない。なのに、此度は抜かざるを得ない事が分かった。神でも恐れ戦くほどの強さを、彼らは秘めていたのだ。
攻撃を加えても、避けられるし、防がれる。仮に当たったとしても、すぐに傷が癒えていく。もはや彼らは神と同等……いや、神をも超えていたのだ。
神の1撃1撃が、山を削り、岩を砕き、湖を消し飛ばす。それでも彼らは悠然とそこに立ち続け、向かって来た。
もはや、そこの土地が以前の姿を見る影もなくした頃。
男5人が周りに倒れ伏せ、かぐやと神だけがそこに立っていた。
「はぁ……!はぁ……もう、貴様、だけだぞ!人間!」
荒い呼吸のまま、かぐやを睨みつける神。かぐやは乱れた呼吸を数度で整え、神の怒りを平然と受け止める。かぐやの衣装はもうボロボロだ。見る影もない。
かぐやはゆっくりと刀を構えて笑った。
「だから?」
「なに……貴様、仲間ではないのか!」
仲間がやられたからどうしたというのだ、というかぐやの言葉に目を見開く神。人間と言うのは、何かにつけて仲間やら家族を大切にするものだときいていたのに。この人間は、人間……いや、こいつは本当に人間なのだろうか?
かぐやはニヤリと笑った。
「ようやく気付いたか。私はこの地球の人間では、ない」
「なんだと……!」
「全く変な仕事任されたもんだ。月の都も、厄介な事押し付けてくれる」
かぐやは、普通の人間ではなかった。地球と離れた月という天体から来た使者だったのだ。月の民は、壊されていく地球を見て、かぐやを派遣した。だが地球と月は環境が違う。かぐやは地球で幼く力弱き存在になっていた。
そこで利用したのがおばあさんだった。都合よく年老いたその年齢を吸い取り、力を得た。だが同時に、おばあさんとかぐやの命はリンクする事になる。おばあさんが死ねばかぐやが死に、かぐやが死ねばおばあさんが死ぬ。
危険と隣り合わせの契約だが、あの時はそれしか方法がなかった。
結果的に、神は追い詰められ、ボロボロの状態。もう反撃する力など殆ど残っていないだろう。
後はこの刀を使って心臓を突き破るだけだった。
「かぐや!」
ハッとした。そこにいたのは若返ったおばあさんの姿があった。なぜここに!それはかぐやにとって最大の弱点なのに。
そのかぐやの反応に、神は全てを悟り、笑った。
神が熱線でおばあさんを焼き殺し、かぐやが神の心臓を突き刺したのは、同時だった。
「ぐっ……!ぐぁあああ!」
神がボロボロと崩れ去り、静寂が訪れる。
かぐやは消えていく命を感じながら、その場に倒れ伏す。
「はぁ、本当に疲れる仕事だったわ」
「っかぐや……!」
ぼんやり空を見上げていると、体を引きずった車持皇子がそこにいた。
「なんだ、生きてたのか」
「私は不死身だから、皆も生きている」
そうか、とかぐやは小さく呟いた。確かに、他4名も僅かに息をしているようだ。車持皇子が回復でもしたのだろう。
車持皇子が必死な形相で和歌を詠う。かぐやを回復させようとしているのだ。
「無駄だ、もう私の命は消えているのだから」
「そんな……!」
車持皇子は絶望した顔を浮かべる。未だかつて自分の和歌で回復しない傷などなかったのに。見れば、確かに傷らしい傷はない。けれど、かぐやの心臓は着実に弱くなっている。
かぐやに耳には、月の都で良く聞いた鈴に音が聞こえて来ていた。
「迎えが来たようだ。じゃあな、復興とか、色々任せた、ぜ」
かぐやはニンマリ笑って、瞳を閉じた。
「かぐやぁああああっ!!」
男の慟哭だけが、その荒野に響いた。
あの戦いの後、世界に平和が訪れた。
5人の男たちは精力的に復興支援に向かった。
そしてときたま、夜空を見上げて感傷に浸るのだ。
「ああ、月が今日も綺麗だ……」
と、呟いて。
この平和の中に、「神殺しのかぐや」の犠牲と、名も知らぬ女の犠牲があった事を忘れてはいけない。
どうしてこうなった。
他の【童話パロ企画】はほのぼのしているのに、どうして。
でも最強の5人想像してたら楽しかったです。
最強の5人の前で、刀片手に恰好良く立つかぐや姫想像したら惚れそうでした。
有難うございました。
そして、ごめんなさい。