表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 路瀕存
6/12

饒舌な口

ぼくたちは,だれもが嘘つきでした。「嘘つきは詩人のはじまり」*1。嘘つきのはじまりはじまり。嘘はさながら窓からの眺望,窓辺に伝う蔓草のように,風に問われるがはやいか,すぐに隠れてしまう,いっこうに窓に這入ることがない,およそ禅問答だな,ああなんだ哲学のことか,さながら哲学のように,在りようを決められない葉脈がいちまい,またいちまいと,まるでわたくしの心のように,深緑に縁取られた廃線が田町から郊外へと繰り出していったまま,文化大革命! けれど論理などどこへいけども見付かりませんでした,現代思想とでもいいながら,なおも逃げまどうのですか,ぜんたい,どこへ。嘘はさながら哲学のように,在りようを決められない,さながらわたくしの心のように,いつだってうわの空で,じっさいのところわたくしたちはだれもが詩人で,そのだれもが嘘つきでした。つまりそれは,だれもが詩人ではないということなのか,はたまた,詩人のだれもが嘘つきなのか,ああ詭弁モダンですね,途端にライトモード,わたくしたちのだれもが嘘つきであることを,ことさら疑いようのない事実にするもの。


ぼくたちは,だれもが嘘つきでした。

薄っぺらいことばを,さらにうすく引き伸ばして,

透けてしまうほどに,

ついでに石臼でごりごりと粉みじんにしたあと,

もはやそれに意味はなく,

原形もなく,

質量のないものを,

自ら煎じて飲み込んで,

反芻して,

しばしの反芻を経て,

しまいには捏造したべつものを吐き出すのです。

幸せなことを幸せだといわずに,

美しいことを美しいともいわずに,

楽しいことも,素敵なことも,

何かしら難癖をつけたがってさ,

天邪鬼なのかしら,

気分屋なのね,

いいや,嘘つきなのです。

ぼくたちは,


忘れもしない,

ぼくたちは嘘つきだから,

悲しいことを悲しいと言えず,

寂しいことを寂しいと言えず,

苦しいことを伝えることができず,

質量のないものを飲み込んで,

反芻して,

しばしの反芻を経て,

しまいには捏造したべつものを吐き出して,

悲しいことを悲しいままにして,

寂しいことを寂しいままにして,

立ちすくむことしかできない,

ぼくたちはどこへ行けるだろうか。

――どうぞ自由に。どうせ,どこへも行けやしない。

どこまで行けどもここは,

ここ以外のどこでもないし,

悲しいことは悲しいままで,

寂しいきもちは寂しいままに,

苦しみはいつしか質量を帯びて,

苦しみ以外のなにものでもないのだから。


ぼくたちのはきだす嘘は,

うまく繁殖するすべを知っていて,

きづけばそこかしこに溢れている,

そしてどこにも根ざしている,

地下茎のごとき,ぼくたちのはきだす嘘だ。


饒舌な口は,

みずからが語りえるもの,

騙りえるもののまえでのみ,

そしてそれのみに生きている。語りえぬもののまえでは,

沈黙しなければならない,むしろ,

沈黙せずにはいられない,その美しさに,その悲しみに,

騙ろうとするそばから腐るそれらに,

おやすみなさい,饒舌な口よ。

2013年 02月24日 13時00分


ID:eR0ge/vC「嘘つきは詩人のはじまり」http://unkar.org/r/poem/1165567228

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ