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悪魔憑き

作者: 真栄野〇藻

昔々、小さな村がありました。山奥の村で訪れる人は殆どいませんでした。そんな小さな村に一人の少女が居りました。

 村人たちの悲鳴が聞こえます。道には人だかりができています。人だかりの真ん中には血溜まりできています。その血溜まりの真ん中に黒髪の少女が倒れています。人だかりから少し離れたところに馬車が止まっています。馬車に繋がれている馬の蹄の裏には血がつき、スタンプのように蹄の形を道路につけていました。おそらく少女は馬車に轢かれたのでしょう。馬車に乗っていた男は馬車から降り、逃げてしまいました。村人たちは姿の見えない男を罵ったり、手を合わせたりしていました。医者を呼びに行った村人はすぐに医者と帰ってきました医者が少女を見下ろしたとき、不意に少女の目が開きました。そして、血塗れのまま立ち上がりました。体には傷一つありません。ただ血塗れなだけです。村人たちは悲鳴を上げました。その場にいる誰もが悲鳴を上げたわけではありません。声も出さずに座り込んでいる者もいました。その日から、その少女は「悪魔が憑いている」と云われるようになりました。

 その出来事から五年後、一人の旅人がその村を訪れました。短い黒髪を持った細身の青年でした。身長はあまり高くはありません。青年は最初に出会った男を捕まえて、尋ねました。

「すみません。この村に悪魔が憑いている人がいると聞いたのですが、何処にいますか。」

男はあまりにも無礼な青年の振る舞いに、少し機嫌を悪くしました。男は怒ったように言いました。

「この村は都会とは違って自然が多く残っており、美しい場所です。ここに来る旅人さんたちは皆美しいところだといってくれます。悪魔なんかよりそちらを見に行ってはどうですか。」

男の言った内容はどれも青年の質問に対する答えにはなっていませんでした。

「・・・・・・。」

男はそれを黙って聞くと、すぐに別の村人に同じ質問をし始めました。二人目の村人も三人目の村人も同じように対応しました。その後、何人目か忘れるくらい聞きまわり、やっとの思いで聞き出すことができました。教えてくれたのは村に少し前についていた別の旅人でした。青年と同じくらいの歳で茶髪で長身の彼は言いました。

「悪魔が憑いてるって話の奴たが、どうやらまだ未成年らしい。村の森の奥の方でひっそりと暮らしてるらしい。人目に触れないようにな。そいつは傷を負ってもすぐに治っちまうんで大抵のことじゃ死なない。それに人間には絶対にできないような動きをするんだってよ。」

青年が聞き返しました。

「人間にはできない動きってどんなんだよ。」

長身の男が答えます。

「一言で言えば運動神経がすごく高いという感じだな。少なくとも人並みじゃない。」

青年はつまらなさそうに言いました。

「・・・・・・それだけかよ。たしかにそりゃすごいが・・・。運動神経だけじゃな。」

長身の男はそれに対してこういいました。

「再生能力のほうはどうなんだよ。」

青年は答えました。

「それもあやしいもんだぜ。」

その後、何度も同じようなことを言い合い、結局、明日その悪魔が憑いている者の所へ行ってみようと言うことで話は終わりました。二人は別々の宿に泊まりました。

 次の日、青年と長身の男は薄暗い森の中へと入っていきました。光の殆ど入ってこない森の中は、分厚い苔が一面に広がっていました。人が入った形跡がまったくない森の中を、苔を踏みしめながら進んでいきます。二人は森に入って十分ほどで、一つの家を見つけました。その家は小さいのですが、きれいで生活感にあふれていました。人が住んでいるのは間違いありません。

 青年が戸を叩きました。トンッ、トンッ、と、戸を叩く軽い音が森の中に響き渡りました。しばらくして、戸がほんの少しだけ開きました。その僅かな隙間から大きな目が一つだけ覗きました。その目は二人の旅人をじっと見ていました。戸を開ける為に戸に掛けた指は細くて、簡単に折れてしまいそうです。二人の旅人は戸の奥から覗いている(モノ)に言いました。

「・・・・・・君が・・・、悪魔・・・なのかな・・・。」

「詳しく話を聞きたいんだけど・・・・・・。」

その(モノ)はしばらく黙ったまま動きませんでしたが、二人を見つめながら言いました。

「入っても・・・いいよ。」

透き通った声でした。その声がした後、戸が完全に開きました。そこに立っている(モノ)を見て二人の旅人はほぼ同時にあっと声をあげました。そこに立っていたのは少女でした。ボサボサの長い黒髪を持っていて、二つの大きな目はどこかやる気のない目でした。少女は立ち尽くしたまま動かない二人にもう一度尋ねました。

「・・・・・・入っても・・・いいよ。それとも・・・入らないの・・・。」

二人は慌てて入りました。

 家の中はさっぱりとしていました。気の床は絨毯(じゅうたん)も敷かずに剥き出しのままで、家具も必要最小限のものしか置いてありませんでした。少女は二人が中に入るとすぐに

「適当に座って。」

と、言いました。旅人たちは言われた通り適当に座りました。座布団が置いてあるのですが、床に座りました。そして青年の方が尋ねました。

「君が悪魔に憑かれているというのは本当なのかい。」

少女はお茶をいれながら答えました。

「らしいね。」

素っ気無い答えでした。今度はもう一人の旅人が尋ねます。

「いつから。」

少女が答えます。

「生まれた時からずっと、みんなより速く動けるし、傷もすぐ治るよ。」

二人の旅人は何気なくそう言った少女を見ました。そして恐る恐る尋ねました。

「生まれた・・・時から。」

「・・・・・・途中からそういう体質になったとかじゃなくて・・・。」

少女は当たり前だとでも言うような口調で答えました。

「うん。生まれた時からそんな感じでね。五年前に馬車に轢かれてから皆が悪魔だって言い出しただけで、この体質は前からだよ。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

二人の旅人はその短い話を黙って聞いていました。話が終わると、少女は自分がいれたお茶に気付き、慌ててそのお茶を二人に出しました。湯気はもう出ていません。コトッという湯呑みを置く音が聞こえました。それからもう音はしませんでした。青年は湯呑みを持ち上げると、それを(すす)りました。その音がとても大きく聞こえました。しばらくして、二人は少女の家を出ました。その姿を大きな目が見ていました。

 帰り道で二人の旅人は話をしていました。家に入ってからまだあまり時間が経っていないらしく、森の中は来たときと同じでした。

「・・・・・・驚いたな。」

「ああ・・・。」

「まだ十五、六歳くらいかな。」

「それくらいだろうな。あの歳で村人から遠ざけられてるってのは辛いだろうな。」

「どうする。」

「何が。」

「あの()の話は聞けたことだし、国に帰るのか。」

「あんたは。」

「俺は帰らない。少し気になったことがあってな。」

「へぇ。何が気になったんだよ。」

「悪魔が憑いてるのは本当に彼女なのかなって思ってさ。」

「どういうことだよ。」

「そういうことだよ。」

「・・・そうか、あぁ、ちなみに俺も帰らないよ。」

「そうか。」

二人はしばらく無言で歩いていましたが、それぞれの宿に戻りました。

 次の日、旅人はまた少女の所に来ていました。少女は何も言わずに旅人を家に上げると、昨日と同じようにお茶をいれました。しかし、今回は一つだけです。少女が尋ねます。

「昨日は二人だったけど、どうしたの。帰ったの。」

この家に一人で入って来た黒髪の青年が答えます。

「いや、死んでしまった。夜中に出歩いて崖から落ちたみたいでさ。」

「・・・・・・。」

少女は黙って聞いていました。そして不意に口を開きました。

「あなたは何しに来たの。」

青年が答えます。

「ああ、村の人達に頼まれたんだ。」

「え。」

少女はわけが分からないといった様子でした。

 ガシャン。窓が割れました。一枚の窓が割れた後、すぐにもう一枚割れました。さらにもう一枚、と次々に割られていきます。戸も破られました。

「なっ、えっ。」

少女は突然のことに驚いていました。そこに村人たちが何人も入ってきました。そしてあっという間に少女を押さえました。押さえられた少女はまず旅人の青年を見ました。そして言いました。泣きそうな声でした。

「何で。どうして。」

まだ混乱している少女を見下ろしながら青年は言いました。

「仲間が死にそうなんだよ。」

少女はその意味を理解する前に青年の後ろにある(モノ)を見ました。少女は目を見開きました。それはゲル状の中指の上に載るくらいの小さな黒い塊でした。それは少女のすぐ近くまで来ていました。押さえつけられ、身動きの取れない少女はそれをただ見ているだけでした。

 ある村人の家で少女がその家の住人と話していました。先刻とは別人のようです。少女が話し始めます。

「ああ、よかった。もう少しで死ぬとこだよ。俺たち(・・・)は宿主が死ぬと一日と生きれないからな。」

「ああ、まさかあの旅人が感づくとは思わなかった。その娘に宿主を変える作戦は何とか成功したが、危ない賭けだった。」

「だね。悪魔が憑いてない人間は強いから。」

「ああ、おまえ(・・・)が取り憑いたことでその娘はもとより弱体化しておまえ(・・・)の存在に感づくかもしれないが、取り憑いてしまえばこっちのもんだ。その娘には何もできない。死なない限りはな。」

二人の(モノ)は楽しそうに笑っていました。

 少女はその家から出て行きました。すると、先刻とは別人のようになりました。村人に押さえられた時と同じです。少女は自分の中で何かが変わったことに気付きました。それが何か少女には分かりませんでした。しかしそれが少女には(たま)らなく恐ろしかったのです。少女は怯えながら走り出しました。森の中にある自分の家へ真っ直ぐ走りました。獣道(けものみち)を走りました。道ではないところを藪を掻き分けながら走りました。しかし以前ほど速くは走れませんでした。途中で枝や葉に体が引っ掛かり傷がたくさんできましたがもうすぐには治りませんでした。







少しわかりにくい小説となっていたかと思いますがここまで読んでいただきありがとうございます。

感想を頂けるとありがたいです。

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