表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81(エイティーワン)  作者: 雨後乃筍
1章 甘い毒
9/33

1−8 思い出の

 私の人生に「結婚」という2文字が存在するなんて、思ってもみなかった。


 帰りの電車に揺られながら、私はうとうととそんなことを考えていた。茨城原子力発電所から牛久駅まで、おおよそ2時間。駅に着いたときは、すでに22時をすぎていた。


 今日はコンビニで夕食を済ますか。


 私は自分の部屋を思い浮かべていた。誰もいない、殺風景な部屋。昨日までイージュンがいた部屋……。


 昨日彼イージュンがいた部屋。一緒に食べた夕食。そして…


 イージュンがいないって考えただけで、こんなにも風景って変わるんだね。


 今は全てがモノクロームに見える。


 イージュンと一緒に生活できたら、どんなに毎日が楽しいだろう。


 結婚か。


 プロポーズって、男の人からするよね?


 でも今の時代はどっちでもいいのかな?


 私の人生に存在しない2文字だと思っていたから。


 そうだ。おばあちゃんとお父さんのお墓に報告に行かなきゃ。


 私、好きな人ができたよ。


 もうひとりぼっちじゃないよ


 だから心配しないで。


 イージュン、一緒にお墓参りしてくれるかな。


 中国って、お盆ってあるんだっけ?


 コンビニで、何を買うわけでもなく、ウロウロしながらそんなことを考えていると、スマホが鳴った。


 胸が高鳴った。画面にはイージュンの名前。


「もしもし?」


「もしもし美里みさとさん?仕事終わりましたか?」


 イージュンの声に呼応するように、思わず自分の声が高くなっていた。


「うん、もうすぐ家に着く。これからコンビニに寄って帰るところよ、どうしたの?」


美里みさとさん、遅いから心配になって」


 憶俊イージュン…かわいい…


「もー、子供じゃないから大丈夫。憶俊イージュンは今家?ちゃんと仕事行けた?」


「はい、あの後仕事行って、帰ってきました。美里みさとさんの家に」


「え?憶俊イージュン、今私の家にいるの?」


「はい、ごめんなさい。どうしても会いたくて」


 憶俊イージュンがいる…会える!


「それで、簡単な夕食作ってます。もしまだだったら…」


 私はコンビニを飛び出し、家まで走った。私の部屋にあかりがついている。なんてやさしいあかり。


 部屋のドアを開けると、美味しそうな、懐かしいような匂いが鼻腔をくすぐった。これって…


美里みさとさん、お帰りなさい。ごめん、勝手に入って」


 私は我慢しきれず、イージュンに抱きついた。


「ううん、来てくれてありがとう。私も憶俊イージュンに会いたかった。変だよね。今朝まで一緒にいたのに」


 イージュンが優しくキスをしてくれた。甘い甘いキス…


美里みさとさん、これ、よかったら」


 イージュンがカップに入った、野菜たっぷりのスープを差し出してきた。


 体の芯が溶けるような、やさしいスープ。おばあちゃんが作ってくれたスープみたいに懐かしい味がする。おばあちゃん…いつもコレ作ってくれたっけ。


 知らず知らずに、涙が溢れていた。


憶俊イージュン、ありがとう。すごく美味しい。昔私のおばあちゃんが作ってくれたスープみたいな味」


「よかった。これ。僕が子供の頃好きだったスープです」


 私はもう一度、イージュンを抱きしめた。


憶俊イージュン。私おかしくなっちゃったみたい。今日もずっとあなたの事考えていた。今日帰ってあなたがいたら、どんなに幸せかって思ってた。私こんなに幸せでいいのかな」


美里みさとさん、僕もずっと美里みさとさんのこと考えてた。だから同じ」


憶俊イージュン。あのね。日本のお盆って、お墓参りをするシーズンなの。今度私のおばあちゃんと、お父さんのお墓参りに一緒に行ってくれる?」


「ぜひ!美里みさとさんを大切に育ててくれた人に報告したいです」


 え?それって…私の心臓が高鳴った…


憶俊イージュンありがとう。私も憶俊イージュンの両親に挨拶に行かないとだね!」


 イージュンが目を伏せて、急に黙り込んでしまっていた。


憶俊イージュン?」


美里みさとさん、今まで黙っててごめんなさい。僕に両親いません」


「え?」


「僕が小さい頃、二人ともいなくなって、親戚に育てられました」


「え?亡くなったの?」


 イージュンが首を横に振った。


「僕のことをおいて、どこかに行っちゃいました」


 それから、イージュンの子供時代のことを話してくれた。


 親戚の家で育てられたこと。


 食事は出してくれたけど、それ以外は相手にされなかったこと。


 奨学金で大学に行き親戚の家を出たこと。


「僕ずっと、自分を偽って生きてきました。本当の自分じゃない自分として。自分のことが嫌い。この顔も体も」


 私はまたイージュンを抱きしめた。


憶俊イージュン、辛かったね、寂しかったね。でも安心して。今は私がいるから。ずっと、ずっと。憶俊イージュンは、私の大好きな憶俊イージュン。それは世界がどうなっても変わらない」


 私が、私が、イージュンのことを守らなきゃ。イージュンに安らぎを与えなきゃ。寂しい思いなんてさせない!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ