1−2 李憶俊
彼との出会いは最悪で最高だった。ドラマチックで、まるで映画みたいな素敵な出会い。
それは、もうすぐクリスマスで、どこの会社でも忘年会だ新年会だの騒いでいる時期。
私の職場では所属する茨城支社ではなく、営業部のある本社でも忘年会が開かれていた。
飲み会自体は嫌いではないが、会社の飲み会は仕事の一環だと思っている。
後輩のグチを聞いたり、上司のセクハラにあっている後輩の間に割って入ったり。
そんな上野での忘年会があった帰り。
私は終電ギリギリで、駅に急いでいた。
終電間際の上野駅は、金曜日ということもあって混雑していた。
「いてーな」
駅前で固まっている男性グループが避けきれず、その内の一人に、カバンをぶつけてしまった。ケーブルが入っている重いカバンだった。
かなり酔っているのがわかった。
「ごめんなさい」
反射的に謝ったが、それだけでは済まなかった。
「おいおい、ぶつかっておいて、それだけで済ますつもり?」
男は4人のグループで、私を取り囲むように迫ってきた。
私は何度か謝ったが、それで解放してくれるような相手ではなかった。
どうしよう…
そんな時、別の男が割って入って来た。
「やめなさい。謝っているでしょう」
声の方を見ると、いかにも頼りなさそうな男の人が立っていた。
「なんだてめーは」
次の瞬間、男の膝が、割って入った男の腹にめり込んだ。
倒れ込んだ男を4人の男がよってたかって足蹴にする。
遠くの方から「早く警察を!」という声が聞こえた。
それを聞いたのか、男たちは「おい、行こうぜ」と去って行った。
残されたのは私と、顔から血を流している1人の男。
「大丈夫ですか?怪我は?」
その男が私に言ってきた。
どう見ても、大丈夫ではないのは、男の方なのに。
「私は大丈夫ですけど、あなたの方が」
「僕は大丈夫。あなたに怪我がないので良かった。じゃ気をつけて」
男は立ち上がり、軽くズボンを叩いて、歩き出そうとしていた。
「待ってください。あの、お礼をさせてください。」
それが、私、田中美里と彼との出会いだった。




