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81(エイティーワン)  作者: 雨後乃筍
4章 逃避
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4−2 暴露

 LEDの天井灯が無機質な廊下を照らしている様は、まるでどこまでも続く無限回廊のようだった。


 その壁にあるドアの一つが開き、男が出てくる。眉間に皺が寄り、苦しそうにも見える表情で。


 あずまは取調室から出て、部長の所沢ところざわのデスクに行き、無言で報告書に署名した。


「終わったか?」


 所沢ところざわは、あずまの報告書には目もくれず、手元の書類を注視したまま問いかけた。


「はい、今日のところは。ただ、肝心のところは半落ちです」


 李憶俊リ・イージュンは空港で射殺された。即死だった。


 内通者の田中美里たなかみさとは国家情報局にその場で逮捕、拘束された。


 田中美里たなかみさとは近くの警察署に連行され、留置場に入れられた。翌日には国家情報局に移送され、取り調べの予定だった。


 その夜、事件が起こった。


 田中美里たなかみさとは自殺を図ったのだ。


 自分の着ていた服を欄干に結びつけて、首を絞めた。


 留置場の壁に、服を引っ掛けるような場所は無いが、腰の高さぐらいの場所に換気用の欄干があった。そこに服を結んで自分の首に掛けて、体を回転させていた。


 自分の体重がかかるわけでは無い。体を一回転させる度に服が捩れて首が絞まっていく。一気に首が絞まるわけではなく、徐々に絞め付けられていく。


 想像を絶する地獄のような苦しみだっただろう。


 ギリギリのところを、異常に気づいた警察官によって病院に運ばれたが、あと数分で手遅れになるところだった。


 取り調べは退院してからとなった。


 3日間、拘束着を付けられたまま入院していた。


 取り調べでは、田中美里たなかみさとはすでに拘束着を着ておらず、淡々と今までの李憶俊リ・イージュンとの日々を語っていた。時に嬉しそうに、時に寂しそうに、そして…。


 原子力発電所への仕掛けもあっさりと自供した。当事者でなければ知り得ない「秘密の暴露」だった。


 田中美里たなかみさとが、当事者であることは疑いようがない。


 ただ、あずまにとって想定外だったのは、彼女の「動機」の部分だった。


李憶俊リ・イージュンに利用されたと?」


「いえ」


 田中美里たなかみさとは一貫して、自分が李憶俊リ・イージュンと一緒に画策したと主張した。自分も主犯だと。


 何度も「奴に利用されたのでは?」「騙されていたのでは?」と逃げ道を用意したが、それも明確に否定した。


「彼女はその意味がわかっているのか?刑法81条の外患誘致罪は死刑だぞ?」


 所沢ところざわが鋭く睨みつけてくる。まるであずまが、そう誘導したのではないかと言わんばかりに。


「はい、それも伝えたのですが」


 適用されれば、日本では初めての適用になる。


 田中美里たなかみさとはそれでも、自分と李憶俊リ・イージュンの共犯だと主張した。まるで何かの呪いにでもかかっているように頑なだった。


 所沢ところざわが深いため息をついて、手元のクリアファイルから一枚の紙を抜き出し、東の方に滑らせた。


「これは?」


田中美里たなかみさとの医療報告書だ」


 あずまはそれを手に取り、文字を追った。その瞬間、全身の血が逆流するのがわかった。


「…部長!」


 あずまが切羽詰まった声をあげると、所沢ところざわが怒号で遮った。


あずま!惑わされるな!やつは外患誘致罪の容疑者だ!俺たちは国家情報局だ!日本が侵略の危機にあった!それを忘れるな!」


 あずまは、手の中のボールペンごと、硬く拳を握りしめた。


「…わかっています」


 プラスチックが割れる鈍い音が響く。


 折れたペンの破片が食い込み、あずまの指の間から真っ赤な血が滴っていた。


 それでもあずまは手の力を緩めることはなかった。


 ただあずまの息遣いだけが部屋の中に響いていた。


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