4−2 暴露
LEDの天井灯が無機質な廊下を照らしている様は、まるでどこまでも続く無限回廊のようだった。
その壁にあるドアの一つが開き、男が出てくる。眉間に皺が寄り、苦しそうにも見える表情で。
東は取調室から出て、部長の所沢のデスクに行き、無言で報告書に署名した。
「終わったか?」
所沢は、東の報告書には目もくれず、手元の書類を注視したまま問いかけた。
「はい、今日のところは。ただ、肝心のところは半落ちです」
李憶俊は空港で射殺された。即死だった。
内通者の田中美里は国家情報局にその場で逮捕、拘束された。
田中美里は近くの警察署に連行され、留置場に入れられた。翌日には国家情報局に移送され、取り調べの予定だった。
その夜、事件が起こった。
田中美里は自殺を図ったのだ。
自分の着ていた服を欄干に結びつけて、首を絞めた。
留置場の壁に、服を引っ掛けるような場所は無いが、腰の高さぐらいの場所に換気用の欄干があった。そこに服を結んで自分の首に掛けて、体を回転させていた。
自分の体重がかかるわけでは無い。体を一回転させる度に服が捩れて首が絞まっていく。一気に首が絞まるわけではなく、徐々に絞め付けられていく。
想像を絶する地獄のような苦しみだっただろう。
ギリギリのところを、異常に気づいた警察官によって病院に運ばれたが、あと数分で手遅れになるところだった。
取り調べは退院してからとなった。
3日間、拘束着を付けられたまま入院していた。
取り調べでは、田中美里はすでに拘束着を着ておらず、淡々と今までの李憶俊との日々を語っていた。時に嬉しそうに、時に寂しそうに、そして…。
原子力発電所への仕掛けもあっさりと自供した。当事者でなければ知り得ない「秘密の暴露」だった。
田中美里が、当事者であることは疑いようがない。
ただ、東にとって想定外だったのは、彼女の「動機」の部分だった。
「李憶俊に利用されたと?」
「いえ」
田中美里は一貫して、自分が李憶俊と一緒に画策したと主張した。自分も主犯だと。
何度も「奴に利用されたのでは?」「騙されていたのでは?」と逃げ道を用意したが、それも明確に否定した。
「彼女はその意味がわかっているのか?刑法81条の外患誘致罪は死刑だぞ?」
所沢が鋭く睨みつけてくる。まるで東が、そう誘導したのではないかと言わんばかりに。
「はい、それも伝えたのですが」
適用されれば、日本では初めての適用になる。
田中美里はそれでも、自分と李憶俊の共犯だと主張した。まるで何かの呪いにでもかかっているように頑なだった。
所沢が深いため息をついて、手元のクリアファイルから一枚の紙を抜き出し、東の方に滑らせた。
「これは?」
「田中美里の医療報告書だ」
東はそれを手に取り、文字を追った。その瞬間、全身の血が逆流するのがわかった。
「…部長!」
東が切羽詰まった声をあげると、所沢が怒号で遮った。
「東!惑わされるな!やつは外患誘致罪の容疑者だ!俺たちは国家情報局だ!日本が侵略の危機にあった!それを忘れるな!」
東は、手の中のボールペンごと、硬く拳を握りしめた。
「…わかっています」
プラスチックが割れる鈍い音が響く。
折れたペンの破片が食い込み、東の指の間から真っ赤な血が滴っていた。
それでも東は手の力を緩めることはなかった。
ただ東の息遣いだけが部屋の中に響いていた。




