3−7 ミス
「東さん、中国艦、下がっていきます。ひとまず侵攻はなさそうですね。自衛隊もデフコン3に下げました」」
小倉が話しかけてきた。
「一旦は大丈夫そうか」
まあ、そうだろうなと東は思った。
中国艦が日本の海岸線に侵攻している時に、原発の無事がわかった米軍が大規模な空軍を戦闘配備した。
原発に対するサイバー攻撃、米軍を足止めにしての軍事侵攻。
その重要な切り札が動かなかったら、文字通り無駄足になる。ましてや証拠が残っている段階では国際批判も免れないだろう。
米国と本格的にやりあうつもりは、元々ないだろうしな。
いや、そもそもどこまで侵攻するつもりだったのか。
「中国も現金なものですね。米軍が配備されたら途端に掌返しですか」
「それは当然だな。米軍とやり合うような真似はしないだろう。あくまで原発への攻撃で足止めができた前提だろう」
「また彼らのプロパガンダに利用されますね」
「向こうからしたら、原発に攻撃できただけでも大成功だろうよ。実際に侵攻しなくても原発に対する武力行使は間違いないからな」
「じゃ、ブラフだったと言うことですか?」
「完全にブラフでもない。原発がメルトダウンしていたら、当然米軍基地は使えない。そこで日本本土へ侵攻すれば、これ以上ないぐらいの宣伝になるだろう。例え途中で撤退してもだ」
「そんな、そんなことのために国民を犠牲に?」
「民衆の命なんか、なんとも思っていないよ。自国民の命でもな。要するに米軍が介入するのを遅らせて、できる限り侵攻したというポーズ。やばくなったら、はいサヨナラって感じだろう」
「じゃ、今回は大失敗ってことですね」
「いや、奴らは利用するさ、日本に脅威を与えて米軍を介入させたってね」
小倉がぽつりと呟いた。
「どっちにしろ日本政府は、しばらくアメリカの言いなりですね」
東は、ふと思った。
「もしかしたら、今回の騒動は、為替介入を目論んだアメリカと中国の共謀だったのかもな?」
もしそうだとしたら、まんまとやられたな。
東が一息吐こうと、コーヒーを取りに立ち上がりかけた時、またしても分室の電話が鳴った。
「東さん、自ら隊からです。逃げられました。女の家はもぬけの空です」
しまった。李憶俊に逃げられたか。
「小倉!緊急だ!牛久から考えられる交通拠点に警戒監視体制を!」
作戦が失敗に終わって、利用価値のなくなった兵器を、中国はどうするか。
証拠隠滅。
東の頭に、李憶俊と、女、田中美里の顔が浮かんできた。
あの、ショッピングモールで、幸せそうにワインを選んでいた彼女。
まだ間に合う、いや、間に合わせる!




