3−5 人か国か
遠野の叫び声が制御センターに響き渡る。
「片側運転にできないか?」
「やってみましたが、止まりません」
「フェイルセーフの再起動は?」
「同じです」
「もう1世代前のバックアップからのレストアは?」
「もうやりました。ダメです。一瞬正常になるんですが、またすぐに戻ってしまいます」
竹川は何か自分のPCで操作しながら、他人事のように呟いた。
「多分、どこかのハードウェア上に仕掛けられて、常に上書きしているから、レストアしてもまた上書きされちゃってるんだろうね」
遠野は、この制御センターの中で、一人だけ温度感の違う竹川を睨みつけた。
「オジサン」
「なんだ?」
「電話」
竹川が自分のヘッドホンを差し出した。
「電話?これが?」
「私の上司というか客、さっき報告入れたから。ここの責任者と話したいってさ」
遠野は竹川から受け取ったヘッドホンを自分の耳に当てた。
「もしもし、制御センターの遠野です」
「国家情報局保安部です。状況を教えてください」
「原子炉の核分裂を止めることができません。あと数時間で限界がきます」
「限界がくると、どうなりますか?」
「え?」
「原子力発電所の限界がくると、どうなるのですか?」
何を言っているんだ?
「それは…セシウム137からの放射能が650シーベルトで…」
「素人にわかるようにお願いします」
「…チェルノブイリの数倍規模の事故が発生します。周辺は即死レベル。最低でも半径30kmは立ち入り禁止です」
「本州が分断されるわけですね」
「それだけではないです。東京と近隣県への電力供給が止まります。交通機関、ライフライン全部です。完全復旧には数日かかります」
「わかりました。できる限り原子炉を止めることと時間稼ぎを最優先にしてください」
「それができれば、とっくにやっています!もう10時間以上です!もうすぐ夜が明けます!」
そうだ、地域住民の安全!
「住民に避難指示を!事故を公表して!」
だが、電話の声は無情だった。
「…ダメです」
なんだって?
「そんなことをすれば、パニックになる。付け入る隙を作るだけです」
「何を言っているんですか!!何万人という住民を見殺しにするつもりですか!?即死レベルの放射線が出るんですよ!」
遠野が電話の向こうに怒鳴りつけた。
だが向こうは冷静に言った。
「そんなものではすまない。首都、いや日本自体がなくなるかもしれない」
首都?日本?!
「…何が起こっているのですか?」
「中国の軍隊が、日本海で駐留しています。軍事侵攻です。日本に」
そんな!
「そこの原子力発電所の近くに、米軍基地がある。もし原子力事故が発生すればしばらく近寄れなくなる。日本海側から首都までノンストップで来れる。それが狙いです」
理解が追いつかない。映画の話を聞いているようだ。
「竹川に変わってください」
竹川にヘッドホンを返すと
「はあ?そんなの無理じゃん、どこにあるのかもわかんないのに。追加料金もらうからね!」
そう言いながら、ものすごい速さでPCを操作していた。
こんなちんちくりんな女に、この国の命運がかかっているのか…
遠野は、自分の無力さに、諦めと憤りが交錯していた。




