2−6 0081
軍で李憶俊に与えられたのは「0081」と言う番号だった。
憶俊に両親の記憶はなかった。大人になってから聞いた話では、母親は他の男と逃げて、父親は憶俊を親戚に預けたまま失踪したらしい。学校には通わせてもらったが、それ以外のものは皆無だった。
親戚の家族が、どこかに出かけても李憶俊は一人家に残された。親戚の家族が、お祝い事でパーティーを開く時も、李憶俊の席はなかった。
ある時、事件が起こった。
憶俊の成績が、従姉妹を抜いてしまったのだ。その親戚からは妬みの対象となった。
狭い納戸のような場所で、憶俊は過ごしていた。
変わらず学校の成績が良かった憶俊は奨学金制度を利用して大学受験に成功した。それと同時に親戚の家から出て、大学の寮に入った。日本との交換留学制度のことを知ったのは大学2年次の時だった。
成績優秀者には、現地での生活費を学校側が出してくれる。
日々のバイトでうんざりしていた憶俊には魅力的な話だった。
日本での交換留学の1日目に、交換留学生の先輩から声をかけられた。憶俊のゼミではメンター制度があり、留学の最初の半年は「メンター」と呼ばれる同郷の先輩がついて、アレコレ助けてくれる制度だ。
そのメンターの先輩が所属する「日中文化交流」サークルに誘われた。日本人もいるサークルだった。日本語もそこまでうまくなく、友人もいなかった憶俊には打ってつけだった。サークル内では、中国の留学生が半分以上占めており、また日本人も中国の文化に理解が深く、すぐに打ち解けた。大半の日本語はそこで覚えることができた。
そろそろ半年が過ぎようとした時に、サークルの先輩から「留学期間が終わったらどうするのか?」と聞かれた。
漠然と、奨学金制度を利用して大学を卒業し、就職して奨学金を返していく、そんなことを話した。するとその先輩が「大学の学費の心配もなく、将来の安定した就職先も確保できる」方法があると言う。
あの親戚の家に戻らなくて済む。
一つ、条件があった。
大学卒業後、4年間は軍施設で訓練を受けること。
大学を卒業した憶俊は、そのまま軍へと入った。
訓練では全ての個性、憶俊という存在はないものとされた。ただ胸にある番号を呼ぶことだけが許された。
訓練の合間に、訓練で一緒になった仲間が声をかけてきた。胸に0078というコードを付けた、背の高くて目が窪んだ男だった。彼の指差す方を見ると、3歳前後の子供達がだいたい20人ぐらいか、部屋の中で運動をしていた。
「あれは?軍関係者の保育園か?」
「違うよ。身寄りのない子供や、買ってきた子供だ。洗脳して日本に送り込むんだよ。子供のいない家庭に孤児として」
「なんだって?」
見ると、子供達の腕には憶俊と同じように0103などの番号札が貼ってあった。
「こんな子供まで兵器に?」
「軍はなんだってやるさ。子供でも容赦ない訓練で、1年後に残っているのは10人もいるかどうか」
憶俊は、窓から見える無邪気そうな子供達をみて、薄寒いものを覚えた。
もしかしたら自分もこうなっていたのかもしれない。自分の子供が、こんなことになっていると知ったら、親だったら狂ってしまうな。




