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81(エイティーワン)  作者: 雨後乃筍
2章 見えない脅威
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2−4 東敬太郎

「無駄だ。変な気は起こすな。局員としての使命を全うしろ。それが自分を守り、国を守ることになる」


 あずまは、入局して間もない頃、ある中国からの留学生Aをマークしていた。守秘義務違反を犯しても被害者に接触しようとしてた時に先輩職員から言われた言葉だった。


 留学生Aは大学工学部の交換留学生として来ていた、精悍な顔立ちの男だ。ハニートラップとして送り込まれるスパイは、ほぼ整形をして日本人女性に好まれる顔立ちをしている。程なくして、同じ大学の年上の女性と付き合い始めた。


 Aは、まんまと女性の家庭に取り込み、アルバイトとして女性の父親の仕事を手伝うようになっていた。その女性の父親は、大手通信キャリアのメンテナンスを行う会社の役員をしていた。


 ここまで半年。そこからは想像通りだった。


 その会社から特殊通信ケーブル設計情報とプロトコル情報を盗み、中国にデータを送信しているところを逮捕拘束した。残念ながらデータ流出は防げなかった。


 その女性と父親に、逮捕の事実を伝えた時は悲惨だった。父親は呆然とその場に崩れ落ち、女性は泣き叫んでいた。あれだけ信頼をおいていれば当然だろう。結婚の約束もしていたはずだ。


 その後、その父親の会社は倒産した。情報漏洩の責任を追求され、大手キャリアからの仕事が切られたのだ。損害賠償も請求されたと思う。また、そんな事故を起こした会社と契約するようなキャリアもいない。


 さんざん走り回ったのだろうが、通信機器メンテナンス一本でやってきたことが裏目に出た。


 最後は「疲れた」という言葉を残して、自宅で首をくくっていた。その後を追うように女性も飛び降り自殺した。女性は妊娠していた。その周辺ではそこそこの豪邸だった自宅も、他人の手に渡り、残された奥さんがどうなったのかわからない。


 その事実を突きつけても、Aは感情を出さなかった。


 ただ自分の役目は終わったこと。自分がこの作戦のために作られた「兵器」であることを告白した。そしてAも翌日には死亡していた。死因は大動脈破裂だが自然死とは思えない。


 何かが体に仕掛けられていた可能性はあるが、最後まで原因はわからなかった。


 スパイ活動によって、日本国家が危機に晒され、仮に軍事行動に発展した場合、それに加担したものは日本人、外国人を問わず刑法81条により死刑となる。もしくは刑法82条により、最大無期懲役という重罪だ。


 単なる犯罪者が、組織的とはいえ、こうして国家に対する脅威を継続的に実行できない。そこには、巨大なバックボーン、資金と組織力、プロパガンダが必要になる。それができるのは、マフィアとかの犯罪組織ではなく、国家規模の軍組織だ。


 それにしても、だ。


 工作員とはいえ、自国民を最も簡単に消してしまう組織力に、あずまは恐怖とも憤りともわからない感情が芽生えた。


 そしてあの一家の末路。あれも、もしかしたら組織的な抹消計画の一部だったのかもしれない。


 スパイとは残酷だ。関わった人の心を深く修復不可能な状態まで深く傷つけていく。そして秘密保持の名目の元、まるで泡のように、簡単に命が消えていく。


 もうあんなことを繰り返してはならない。


 誰かの希望を火を消してはならない


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