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81(エイティーワン)  作者: 雨後乃筍
1章 甘い毒
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1−9 覚悟

 イージュンとの子供が欲しい。それが残酷なほど身勝手な、私の「エゴ」だということは分かっていた。私の内腿を伝う生々しい感触が、いつからか私たちが「避妊をやめた」という事実を静かに物語っていた。 時計を見ると、出勤まで1時間以上の余裕がある。


 隣ではイージュンが静かな寝息を立てている。


 イージュンとは半同棲状態になり、ほぼ毎日一緒に暮らすようになっていた。


 イージュンの体の温度、イージュンの匂い、差し込む朝の光。全てが私の孤独だった人生を塗り替えていた。


 全てが愛おしく感じる。イージュンの存在によって。


 私はイージュンの前髪をそっとかきあげ、静かにキスをすると、ずっと隣に居たい欲求に逆らって、裸のままベッドからするりと抜け出た。


 たまには私が朝食ぐらい作るか。


 トーストと目玉焼きぐらいなら。


 私はその恐ろしいほどの愛おしさを腹の底に感じつつ、ベッドを抜け出してシャワーへ急いだ。


 いつもイージュンは私の体を気遣って避妊をしてくれていた。


 だがある時、避妊具をつけようとしていたイージュンの手を止めた。


「今日、それ付けなくていい」


「え?でも」


「いいの。憶俊イージュンを直接感じたい。それに憶俊イージュンとの子だったら欲しい。きっと可愛い顔した男の子だよ」


 その言葉は、私自身の心の奥底に隠れていた本音だった。エゴだということはわかっている。でも、それでも構わない。父を亡くしたあの日から、私には兄弟も親戚もいなかった。また大切な家族を失うのが怖くて、誰かと深く関わることを無意識に避けて生きてきたはずだった。


 いつか、イージュンが私の前からいなくなってしまったら?そんなの嫌だ。


「僕の子供?」


 イージュンは、明らかな戸惑いを見せていた。重いと思われたかな。


「そういう意味じゃないの。私、憶俊イージュンとの子だったら、きっと可愛いし、一人でも育てられる」


「美里さん、僕自分に子供がいることが想像できない。でも美里みさとさんの子供だったら絶対に可愛いと思います」


「やだ、憶俊イージュンの子供でもあるのよ?」


「はい、二人の子供。絶対に可愛い」


「まだ、できるって決まったわけでもないのに」


 私たちは笑いあった。こんな幸せな笑いって。


 私たちは、その夜いつもより激しくお互いを求めあっていた。


 熱いシャワーを頭から浴びて体をリフレッシュさせる。一気にけだるさが抜けていくのがわかる。大き目のバスタオルで体をくるんでバスルームから出ると、イージュンがベッドの端に座っているのが目に入った。


「おはよう、起きてたの?」


 返事がない?


憶俊イージュン?」


美里みさとさん、僕、僕」


 どうしたのだろう?怯えている?


「どうしたの?大丈夫?」


「怖い…」


「怖い?何が?」


「自分がないのが怖い…」


「え?」


美里みさとさんがいなくなっちゃうのが怖い、自分がなくなるのが怖い…」


憶俊イージュン、どうしたの?私いなくなったりしないよ、ずっと憶俊イージュンのそばにいるよ?」


「僕は本当の自分じゃない。作られた自分。美里みさとさんに気に入られるように作っている」


憶俊イージュン、それは私も同じだよ?憶俊イージュンに嫌われるのがすごい怖い。あなたに好きになって欲しいと思っている。みんな一緒だよ?」


「違うんです、僕、僕」


 私は震えるイージュンを、そっと抱きしめてあげることしかできなかった。


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