1−9 覚悟
彼との子供が欲しい。それが残酷なほど身勝手な、私の「エゴ」だということは分かっていた。私の内腿を伝う生々しい感触が、いつからか私たちが「避妊をやめた」という事実を静かに物語っていた。 時計を見ると、出勤まで1時間以上の余裕がある。
隣では彼が静かな寝息を立てている。
彼とは半同棲状態になり、ほぼ毎日一緒に暮らすようになっていた。
彼の体の温度、彼の匂い、差し込む朝の光。全てが私の孤独だった人生を塗り替えていた。
全てが愛おしく感じる。彼の存在によって。
私は彼の前髪をそっとかきあげ、静かにキスをすると、ずっと隣に居たい欲求に逆らって、裸のままベッドからするりと抜け出た。
たまには私が朝食ぐらい作るか。
トーストと目玉焼きぐらいなら。
私はその恐ろしいほどの愛おしさを腹の底に感じつつ、ベッドを抜け出してシャワーへ急いだ。
いつも彼は私の体を気遣って避妊をしてくれていた。
だがある時、避妊具をつけようとしていた彼の手を止めた。
「今日、それ付けなくていい」
「え?でも」
「いいの。憶俊を直接感じたい。それに憶俊との子だったら欲しい。きっと可愛い顔した男の子だよ」
その言葉は、私自身の心の奥底に隠れていた本音だった。エゴだということはわかっている。でも、それでも構わない。父を亡くしたあの日から、私には兄弟も親戚もいなかった。また大切な家族を失うのが怖くて、誰かと深く関わることを無意識に避けて生きてきたはずだった。
いつか、彼が私の前からいなくなってしまったら?そんなの嫌だ。
「僕の子供?」
彼は、明らかな戸惑いを見せていた。重いと思われたかな。
「そういう意味じゃないの。私、憶俊との子だったら、きっと可愛いし、一人でも育てられる」
「美里さん、僕自分に子供がいることが想像できない。でも美里さんの子供だったら絶対に可愛いと思います」
「やだ、憶俊の子供でもあるのよ?」
「はい、二人の子供。絶対に可愛い」
「まだ、できるって決まったわけでもないのに」
私たちは笑いあった。こんな幸せな笑いって。
私たちは、その夜いつもより激しくお互いを求めあっていた。
熱いシャワーを頭から浴びて体をリフレッシュさせる。一気にけだるさが抜けていくのがわかる。大き目のバスタオルで体をくるんでバスルームから出ると、彼がベッドの端に座っているのが目に入った。
「おはよう、起きてたの?」
返事がない?
「憶俊?」
「美里さん、僕、僕」
どうしたのだろう?怯えている?
「どうしたの?大丈夫?」
「怖い…」
「怖い?何が?」
「自分がないのが怖い…」
「え?」
「美里さんがいなくなっちゃうのが怖い、自分がなくなるのが怖い…」
「憶俊、どうしたの?私いなくなったりしないよ、ずっと憶俊のそばにいるよ?」
「僕は本当の自分じゃない。作られた自分。美里さんに気に入られるように作っている」
「憶俊、それは私も同じだよ?憶俊に嫌われるのがすごい怖い。あなたに好きになって欲しいと思っている。みんな一緒だよ?」
「違うんです、僕、僕」
私は震える彼を、そっと抱きしめてあげることしかできなかった。




