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序文:81

 国番号「81」は日本の国際電話国コードです。

 海外から日本へ電話をかける際、市外局番や携帯電話番号の頭の「0」を除いた数字の前に「81」を付けます。


 刑法第81条(外患誘致) 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。


 この法律の適用例は、まだない。


<つづく>


 判決


「被告人、前へ」


 裁判長の声に促されて、私は立ち上がった。

 目の前には、裁判官。私の脇には、警備が二人ついている。


 きっと背後には傍聴人が大勢いるのだろう。なにしろ日本で初めての適用例だ。新聞やネットで騒ぎが想像できる。


 検察の求刑は死刑だったはず。国家情報局の捜査官がそう言っていた。


 私が彼と、日本国に対して中国の軍事侵攻の手引きをしたのだから、当然だ。


 それでいい。


 なんの価値もない私のモノクロの人生は、彼のおかげでカラフルに色付いたのだから。

 彼のいない世界なんて耐えられない。もう1人はいやだ。


 もうすぐだ。もうすぐそれも終わる。


 自分の人生が走馬灯のようによぎる。彼と出会うずっと前、私の人生がまだモノクロームだった頃…


 ******


 幼い頃、母を病気でなくし私(田中美里たなかみさと)に母親の記憶はなかった。それ以来就職までおばあちゃんとお父さんの3人で暮らしてきた。


 寂しいと思ったことはなかった。


 優しいおばあちゃんと、技術者でよく遊んでくれた父との3人暮らし。不満に思ったことはない。


 私は、他の女の子がプリキュアやシルバニアで遊んでいるところを、機関車トーマスを見ながら、父の工具と銅線で遊んでいるような子だった。


 父は、週末はいつも一緒に過ごしてくれて、学校の授業参観やPTA活動にも参加してくれていた。


 そんな父の影響もあってか、大学は工学部に進んだ。昔と違って今時の工学部は男子だけではなく女子も多い。

 私は、いわゆる「モテる」タイプでもなく、男友達と同じような感覚で扱われていて、それに特に不満はなかった。むしろ心地いいぐらいだった。


 ゼミの飲み会で、先輩に誘われたのが初体験だった。酔っ払った上での「ノリ」のような扱い。なんの感情もなかったし、その先輩と付き合うこともなかった。


 大学を卒業し、どこに就職しようかと考えていたとき、父親のツテで、アトラスという会社を紹介された。

 重要インフラの整備を専門にやっている会社で、創業は新しいが、国の力が入っている会社で、従業員は国や有名企業からの出向者がたくさんいた。


 そんな中で「女性の技術職」という枠での採用だった。


 国のバックアップがあり、重要インフラのメンテナンスということで、安定しているホワイト企業。父親と同じような技術者になりたいと思っていた私にはうってつけの仕事だった。

 無事就職が決まり、入社二年目の時、父親が心筋梗塞で亡くなった。長年の無理とストレスではないかと言う話だった。


 おばあちゃんは大学在学中に亡くなっていた。


 兄弟も、仲の良い親戚もいない。


 学生時代の友人はいたが、就職すると疎遠になっていった。みんなそれぞれ別の付き合いがあり、早くに結婚する友人もいた。


 私には結婚の話どころか、特定の男性との付き合いもなかった。

 社内に男性はいるが、自分より年上ばかりだし、私は年上の男性が苦手だった。


 早くに父親を亡くしているせいかもしれない。また自分の家族を失うのがこわかった。


 後輩にも男性はいるにはいたが、何しろガムシャラに働いて、年上の技術者たちに混じって、床のフリーアクセスを剥がし、埃と油にまみれた女性に色気を感じてくれるはずもなく、三十路をすぎた時には、このまま独身も楽でいいかと諦め半分、達観半分という気持ちになっていた。


 仕事が終わって、真っ暗な自分の部屋に帰り、テレビをつけてコンビニ弁当と缶ビール。


 これが私の日常だった。


 寂しさは感じなかった。


 いや、それを誤魔化すようにガムシャラに働いていたのかもしれない。


<つづく>


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