第17話 汚れた帝国
観客席から、一斉に歓声が上がった。
叫び声。
拍手。
足踏み。
興奮が、波のように広がっていく。
それとは逆に、会場に響くドラムの音が少しずつ弱まっていった。
一定だった拍が乱れていく。
管理されたリズムが、動揺を隠しきれていなかった。
その時だった。
闘技場全体を覆う歓声を押し潰すように、スピーカーから聞き覚えのある声が響いた。
「私は、こんな不愉快な見世物を見るために、ここに来たつもりはないんだがな」
一瞬にして、場内が静まり返った。
ざわめきも、息遣いも、すべてが止まった。
ドラムの演奏もぴたりと途切れた。
次に響いたのは別の声だった。
「お前ら、何をしている」
落ち着きのない、震えた指揮官の声。
「早く弓矢を、放て」
兵士たちの弓が、一斉に引き絞られた。
狙いは、勇者メイトリックス。
――やめて! メイトリックスがやられちゃう。
アリッサは両手を握りしめた。でも、自分には何もできない。
一斉に矢が放たれた。
空気を裂く音。
観客の悲鳴。
次の瞬間、白い光の壁がメイトリックスの周辺を囲んだ。
矢は光の壁に弾かれ、勢いを失ってバラバラと地面へ落ちていく。
会場が凍りついた。
――これは、魔法?
アリッサは会場を見渡した。
「魔法の反応を確認しました」
兵士の叫ぶ声が響く。
「発生源は観客席。魔法使いがいるぞ」
次の瞬間、兵士たちが一斉に動いた。
観客をかき分け、一箇所に集中する。
その中心にいたのはシンディだった。
「やっぱり、見つかっちゃった」
肩をすくめて小さく笑う。
逃げようとはしなかった。
兵士たちがシンディの両腕を掴む。
「お前、魔法使いだな」
「拘束する」
淡々とした宣告。
シンディは闘技場の中央を見た。
そこには、まだ立っているメイトリックスの姿があった。
「……バカね」
それだけを、口の動きで伝える。
そして、そのまま連行されていった。
歓声は戻らない。
コロシアムに残ったのは、不自然な静けさだけだった。
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