第一話「神様は幼女」
「ひ、人じゃぁあああ!!!」
ある夏の日、俺は神社で幼女と出会った。
後に神と名乗るその幼女と過ごした夏休みの話をここに書いていこうと思う。
***
俺の家では毎年、八月の中旬から下旬にかけて母方の祖父母の家に泊まりに行くことになっている。
家の周りには畑と田んぼが広がっていて、玄関を開ければ大きな山が目に入る。
良く言えば自然豊か、悪く言えば――ド田舎。
遊びたい盛りの中学男子としては、そんな場所に連れていかれるのが実に不満であった。
「あー、やることねぇー」
俺は鼠色のカーペットが敷かれた床に寝そべって、外で鳴いているセミに負けじと嘆きの声を上げた。
「新、ごろごろしてないで外にでも行ってきなさいよ。せっかくの自然なんだから」
母さんが寝転がる俺を見下ろして足でつついてきた。
外で遊べと言われても、こんな友達も知り合いもいない場所で一人で何をすればいいんだよ。
「いいよぉ。外は暑いしやることないし。毎年来てるんだから山とか川は飽きたって」
もう家の周りは小学生の頃に行きつくしているので、新鮮さが全くない。
それに中学生ともなれば、一人で駆け回って遊ぶほどの無邪気さも失われていた。
「そんなに暇ならお金あげるから駄菓子屋にでも行ってきなさいよ。少しは外に出て太陽浴びてきな」
俺を見ろす母さんが千円札を差し出している。
なんだかお金を見せられると断りにくいもので、本当にやることもなかったし俺はしぶしぶ外に出ることにした。
***
「あちぃー」
さっきまでエアコンの効いた部屋にいたせいか、外はまるでサウナのようだった。
体全体で夏を感じつつ、俺は駄菓子屋に到着した。
外には10円ゲーム、ガチャガチャ、アイスの入った冷凍庫。
いかにも駄菓子屋って感じの見た目だ。
「こんちゃー」
店に入ると大量のお菓子が目に入ってきた。
中心に棚が置いてあり、通路は狭く、お菓子の無い場所が通路になっているといった感じだ。
「あら、見ない顔だねぇ。どこの子だい?」
部屋の奥からおばあさんが俺に話しかけてきた。
この人は母さんが子どものころから、この駄菓子屋の店主をやっているらしい。
俺も小学生のころから通ってるんだけど、全然顔を覚えてくれない。
「新だよ、東城新。ゆりこの息子」
俺はお菓子を手に取って選びながら返した。
「あら、ゆりちゃんのぉー。そおぅ、大きくなってぇ」
母さんは昔、この辺りで有名な問題児だったらしく、俺の身分を説明するには母さんの名前を出すのが一番手っ取り早い。
「おばあちゃん、これちょうだい」
俺は適当に選んだ、ポテトフライとココアシガレット、モロッコヨーグルトにビッグカツとスルメが入ったカゴを渡した。
「1、2、3……全部で一万円ね」
昔からこのおばあさんはこういうしょうもない小ボケを挟んでくる。
「はい、一万円」
そういって、俺は千円札を差し出した。
「あら、お金持ちやねぇ」
そう言っておばあさんは千円を受け取って、手慣れた手つきでレジを打った。
「はい、お釣り。もっとようさん買うたらええのにぃ」
俺はお釣りを受け取ってポケットに突っ込むとお菓子の入った袋を持って駄菓子屋を出た。
***
どうせ真っすぐ家に帰ってもやることがないので、山の方を回って帰ることにした。
右には山、左には田んぼ。
おばあちゃん家の周りとほとんど同じだ。
どこまで歩いても変わらない景色――だと思ったら、鳥居が目に入った。
「こんなところに神社なんてあったっけ」
小学生のころにこの辺は探索しつくしたと思っていたが、意外と知らない場所があったらしい。
「ちょうど駄菓子屋で小銭ができたし、お参りでもしていこうかな」
鳥居の先には階段があって、下からでは社が見えない。
「はあ、これを登るのか」
周りではセミがうるさいくらい鳴いていて、余計に暑く感じられた。
***
「はあ…はあ…。ようやく着いた」
階段を上ると両隣に灯篭、正面にはそこそこ大きな社が見えた。
地面は社までの道が石畳になっていて、そこ以外は雑草で覆われている。
「まあ、こんな山の中だし誰も手入れなんかしてないか」
一通り見て回った俺は社の周りにある、縁側のようなところに腰かけて一息ついた。
もしかしたら座っちゃダメかもしれないけど、アニメだとよくここで雨宿りしたりしてるし大丈夫だろう。
「しっかし、寂れてるなぁ」
俺は駄菓子の入った袋からスルメを取り出してかじりながらつぶやいた。
周囲を見回しても、人の気配が一切しない。
「さっさと、帰ろう」
少し不安になった俺は、立ち上がって賽銭箱の前まで行った。
俺はポケットから五円玉を取り出して賽銭箱に投げ入れ、お祈りをした。
あー、神様。どうか見守っていてくださ――
「ひ、人じゃぁあああ!!!」
「うわぁあああっ!」
俺は目の前に唐突に現れた幼女に押し倒されてしりもちをついた。
な、なんだこいつ。
「すまぬ……ここに人が来るなど久しぶりでな。つい興奮してしもうた」
幼女は俺の上に乗って頭を押さえている。
巫女服? いや、似てるだけか。
「お前、この神社の子か?」
俺は体を少し起き上がらせながら聞いた。
「お主! 神に向かってお前とはなんじゃ! 失礼な奴じゃのぅ!」
神? 何を言ってんだこいつ。ちょっと頭の弱い子なのかな。
「誰が頭の弱い子じゃ! 妾はこの社に祀られておる神じゃ!」
幼女は俺の胸ぐらをつかんで、体を揺さぶってきた。
「ほれ、これならどうじゃ?」
そう言って幼女は俺の横に落ちている駄菓子を空中に浮かせてみせた。
「う、浮いてる…」
幼女は浮いている駄菓子からスルメを手に取って食べ始めた。
それ俺のなんだけど……。
「細かいことを気にするでない。ほれ、贄をくれた褒美じゃ。神の加護を受け取るがよい」
幼女はスルメを持つ手と反対の手を俺に向けてきた。
すると俺の全身が発光し、何か活力のようなものが漲る感覚がした。
「うぉおおおお!!」
俺は何かを授かったらしい。
「これでお主は一週間、失くしものをしなくなる」
な、なんだその絶妙にショボい加護は。
「今ではこれが限界じゃ。妾を信仰する者が減っておる故、たいしたことはできぬ」
「そ、そうなのか…っていうか、さっきから当たり前のように俺の心を読むのやめてくれない? あと、そろそろ俺の上からどいてくれ」
「おお、これは失礼した」
幼女はふわっと浮かび、賽銭箱の上のあたりに漂って見下ろしている。
「お主、この土地の者ではないな。しかし、妾の信者として見込みがある。お主! これからこの神社の掃除をしに参れ。来なければ祟るからの! 本当じゃからな!」
そう言って幼女は蜃気楼のように掻き消えた。
なんだったんだよ今の。
あまりに突然で一瞬の出来事に混乱が収まらない。
「うん、これは熱中症かなんかで俺の頭がおかしくなってるんだ。そうに違いない。帰ろう」
俺は現実逃避をすることにした。
そうして、俺は中身の入っていないレジ袋を片手に、家に帰った。
***
その日の夜、失くしていたと思っていたゲームのカセットがカバンから見つかった。
どうやらあの加護は本物だったらしい。
微妙とか言ってごめんなさい。
俺は布団の中でそっと手を合わせた。




