第8話 俺だけの理想郷―― 3
翌朝。
さっそくゲレオンが馬車一杯に道具を詰め込んでやって来た。
まずは家作りから始めるということなので、ロボットを何台か貸し出すことにした。
俺なんかの為にロボットを使わせるのは申し訳ないと恐縮していたが、太陽光パネルの設置や上下水道の整備なんてロボットの協力なしに出来るわけがない。
ゲレオンの息子は、ルーディといって年齢は俺の一個上だった。
親父とは似ても似つかないようなヒョロヒョロの体型。
俺は「え? 本当に血繋がってるの?」という質問が喉から出かかったが、何とか堪えた。
眼鏡の下には大きなクマ。
全身から疲弊しきったオーラを漂わせている。
……森のマイナスイオンを浴びて、元気を取り戻して欲しい。
「宜しく、ルーディ」
「宜しくお願いします。僕なんかを雇って頂いて本当に感謝しています」
「都会に疲れたんだって?」
「……はい。もう二度とあんなとこには行きません」
そう言うと死んだ魚のような目で遠くを見つめた。
これはマジで限界だったんだな……。
「親父さんから、君の頭の良さは聞いてるよ。ここが住みやすい場所になるよう、ロボットと一緒に頑張ってくれ。無理やり押しつけられた仕事じゃなく、自分のやりたいことを自分で探して、自分のペースでね」
「ありがとうございます……。それではまず、地理的なメリットを活かして、スケーリングの向上を図りたいと思います」
「スケーリング……? 何それ?」
「事業規模の拡大ですね。この森の内部だけで完結するのではなく、その範囲を森の外にまで拡大します」
「ほ、ほう……」
――しまった。
俺は静かな生活を送りたいんだ、ということをこいつらに伝えてなかったな……。
「この森を北へ抜ければゾルタン村。その少し先にはドライザー湖があります」
「ふ、ふむ」
「僕たちの住むフンバー村とゾルタン村は、この森を迂回する形で交易してます。馬車移動で数日はかかる距離なので、せっかく湖で取れた魚も買うことが出来ません」
「なるほど」
「ですが、この森の道を北の端まで伸ばすことが出来れば、半日程度にまで距離が縮まるので魚はもちろん、もっと多くの交易が可能になるはずです」
ここら辺で止めとくか……?
それはやるつもりが無いって。
「それは面白そうだが――」
と、俺が話を遮ろうとすると、ルーディは徐々に熱を帯びた瞳でまくし立ててくる。
おい、さっきまでの疲れ切った顔はどこ行った!?
「ですよね! この森を交易の中心地としましょう。通行税も取りましょうか。一人当たり銅貨二枚程度でも、塵も積もれば山となるはずです」
「いや、ルーディ」
「そして北だけではなく、東西へも道を切り拓いていきましょう。移住者がどんどん増えていけば、シンタロウ様にも爵位が付与されるはずです」
「いや、それはマジでいらない」
「この森の地形を活かしたアトラクションなども作っていきましょうか。交易だけでなく、観光地としても発展させるのです!」
ダメだこいつ、俺の話を聞こうともしない!
でも、せっかく元気になったのに、ここでまたテンション下げるようなことは言いたくない。
どうすりゃいいんだ、これ。
……その後も延々とルーディの熱弁は続いた。
根負けした俺は、この場から解放されるために、こう言うしかなかった。
「わ、分かった。一旦お前に任せるから、好きなように進めてみて……」
「ありがとうございます! 絶対にこの森を発展させてみせます!!」
ルーディはスッキリした顔で深々とお辞儀をすると、親父の元へ走っていった。
『彼の語った計画は、あながち夢物語とは言えません』
オルディナが冷静に告げる。
「……マジで?」
途中から何を寝言言ってるんだ、絶対無理だろうと思って任せることにしたけど……。
『興味深いですね』
「何が?」
『あなたは静かに暮らしたいと言いながら、自らその可能性を潰していきます』
そんなのは言われなくても分かってるんだよ。
断れない性格って損だよな。
◆◆◆
ゲレオン一家が移住してきて数週間。
ルーディもまた猛烈な勢いで働き始めていた。
道路の延伸計画を立て、ロボットたちを指揮し、測量までこなす。
領都での激務に耐えていただけあって、見た目の割に体力がある。
うん、俺は相変わらず畑を耕してるだけだけど。
そんな日々が続いたある日。
それは突然訪れた。
俺は午前中の畑仕事を終えて、ソファでくつろぎながら『プリズムブレイカー☆ティアラ』の第八話を鑑賞していた。
トントン。
ドアを叩く音がした。
ルーディか?
そう思って扉を開けると、そこには立派な格好をした二人の男がいた。
「……? どちら様で?」
「ザイデル家の使いです。今日はシンタロウ・タムラ殿にこれをお渡しに参りました」
そう言って、一枚の封書を俺に差し出した。
ザイデル――公爵家だ。
心臓が一度ドクンと大きく跳ねた。
まさか、徴兵の通達か……?
騎士として、ついに帝国との戦線に俺も駆り出されるのか?
俺は手の震えを必死に抑えながら、封を開ける。
そして、目に入ったのは――
「……入学案内?」
「はい。来月から貴族子弟の通う学園にシンタロウ殿も新入生として入学して頂きます」
「いや、何も聞いてないですけど……。俺、貴族じゃないですよね? 爵位ないし」
「騎士は爵位を持たない下級貴族に該当します」
「え? それは知りませんでした……」
俺がそう言うと、使いの男はフッと鼻で笑った。
直感的に馬鹿にされたことが分かった。
「全寮制となりますので、荷物の準備をしておいて下さい。入学の一週間前に迎えに参ります」
「はい……」
嘘だろ。
結局、領都に行く羽目になるのかよ。
使いの男たちは一礼すると、俺に背を向け馬車に向かっていく。
しかし、途中で何かを思い出したかのように振り返った。
「あ、お嬢様からの伝言を忘れておりました」
「お嬢様……。ヒルデガルド様ですか?」
「はい。再会を楽しみにしている、とのことでした」
「そ、そうですか。それは光栄です、とお伝えください……」
マジかよ。
せっかくの待ち望んだ静かな生活はもう終わりなのか……?
貴族のガキたちの集まりなんてイジメの温床だろうが。
魔力ゼロの俺に人権なんてあるのかよ。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
次回から学園編がスタートです。
フォローや☆で評価して頂けると大変励みになります!
ポチっと押して頂くだけで、めちゃくちゃモチベーションが上がるので何卒宜しくお願いします!!




