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第6話 俺だけの理想郷―― 1

 俺が譲り受けた森林は、鉱山近くの村から馬車で一時間くらいの距離にある。

 まさか自分の土地を持つ日が来るとは夢にも思わなかった。

 伐採用の道具を詰め込み、借りた馬車に乗り込む。

 その手綱を取るのは俺だ。

 事前に操縦方法のレクチャーは受けている。

 もっとも馬に装着した装置や車体は魔法で制御されているので、暴走の危険はないらしい。


 何人かの鉱夫が作業を手伝うと申し出てくれたが、丁重にお断りし、その時が来たらお願いしたいと伝えておいた。


「オルディナ。お前にかかれば、森の開拓なんてあっという間だよな? 衛星からレーザーとか照射して」

『はい、木々の伐採だけであれば瞬時に可能です。その後の木材加工などは難しいですが』

「それは作業用ロボットに任せるつもり。出来るよな……?」

『人間の手作業よりは遥かに精密な作業が可能です。スピードも比較になりません』

「そいつは楽しみだ」


 しばらく馬車を走らせると、目的の、いや俺の森に到着した。

 改めて目にすると、めちゃくちゃデカい。

 東京ドームで言うと何個分とかじゃなく、何十個分以上なのは間違いない。

 そのスケール感に圧倒される。


「さて、まずはロボットを起こしに行けばいいか?」

『はい。場所をご案内いたします』


 目の前にホログラムの地図が展開される。

 ナビに従って、俺は森の奥へと進んでいく。


 ……が、めっちゃ歩きにくい。

 道の整備もしないとな。


『ではこのあたりで実行します』

「あ、生態系を壊したくないから先に動物たちを避難させられる?」

『可能です。少しお待ちください』


 衛星から無音の衝撃波が放たれた。

 周りの木々の枝葉が揺れ、無数の鳴き声と共に、潜んでいた動物たちが一斉に散開していく。


 そして次に——。


 天から放たれた一直線のレーザービームが、森の中心へ吸い込まれるように突き刺さった。

 その淡く白い線に触れた木々は、一瞬で形を失い、跡形もなく消えていく。

 倒木も破片も残らない。

 焼け跡すらない。


 眩しさが引いたとき、さっきまで密林だった場所には、ぽっかりと大きな穴が空いていた。


『工場の屋根も破壊しておきました。それでは起動します』


 あまりの展開の速さに、思考が追いつかない。

 ただ茫然と俺は目の前の状況を見守るだけ。


 ブゥン……。

 ブゥン……ブゥン……。


 大穴の奥から、何かのスイッチが入ったような駆動音が響き始めた。


 やがて、直径1.5メートルほどの真っ白な球体が、ふわりと浮かび上がって姿を現した。

 しかも一つではない。

 次から次へと、途切れることなく同じ球体が湧き出してくる。


「もしかして、これがロボットか……?」

『はい。二千年眠っていた古代遺物レガシーたちです』

「手とか足が無いけど、どうやって工場で作業してたんだ?」

『収納しているだけです。必要な時に必要な数だけ展開されます』


 呆気に取られている間に、その数はますます増えていき、最終的には三十体ほどが宙を漂っていた。


「すげぇ……。人間よりも遥かに仕事が早くて正確なのが、こんなにたくさん……」

『衛星群から常時太陽光を受電できるため、休憩も不要です』

「超ブラックじゃねぇか。てか、工場に残ってる部品とか使って太陽光発電とか風力発電とか出来る?」

『もちろん可能です』

「よし、じゃ電力関係はそれで賄うか。SDG'sってやつだな」


 三千年の時を経て、あのブラック企業の取り組みがまさかの形で蘇る。


「じゃ、さっそく俺の家を建ててもらおうかな。希望だけ伝えればいい?」

『はい、お願いします』

「じゃあ……まずは日当たりのいい場所に。間取りは3LDKくらいで広すぎなくていい。トイレは水洗にしたいから、水道設備も頼む」

『了解しました。水は近くの湧き水を活用しましょう』

「どれくらいで出来る?」


 ――沈黙。


 いつもならすぐに返事が来るのに、今回は少し間があった。


『……問題が発生しました』

「は? 何の?」

『ロボットの動力源を確認したところ、太陽光受電パーツの基幹部品が経年劣化で破損しています』

「……つまり、どういうこと?」

『このままでは、ロボットは数時間しか稼働できません。充電ができないのです』


 俺の脳裏に最悪のシナリオが浮かぶ。


「まさか家は建てられないってこと?」

『いえ、修理すれば可能です』

「焦らせるなよ……。ロボット同士で修理させればいいのか?」

『ロボットは安全措置として、お互いの筐体に干渉できないよう設計されております』

「おい……。つまり、俺がやる必要があると」


 めっちゃ不器用なんだけど俺……。

 手のひらに汗が滲む。


『必要な工具はロボットが用意し、私が手順を指示します』

「そりゃ、そうだろ……」

『ありがとうございます。では、始めましょう』


 ロボットが大穴から工具を運んでくる。

 見慣れない形状だし、使い方も全然分らん。


 俺は深呼吸をして、目の前のロボットの背面のパネルを開けた。

 中には、複雑に絡み合った配線と、ひび割れた基板が見える。

 見ただけで放り投げたくなる。


『まず、この赤い配線を外してください』

「……了解」


 俺は震える手で、配線に触れる。

 一歩間違えれば、せっかくのロボットが使い物にならなくなるかもしれない。


『次に、この基板を取り外します。慎重に』

「分かってるわ……」


 額に汗が流れる。

 集中力を極限まで高めて、作業を続ける。


 ――どれくらい時間が経っただろうか。一時間どころじゃない。


『最後のステップです。この部品を、元の位置に戻してください』


 俺は息を止めて、部品を慎重に押し込む。


 カチッ。


 小さな音と共に、部品がはまった。


『受電起動テストを開始します』


 ブゥン……。


『成功です。復旧しました』


 その言葉を聞いて、全身の力が抜けた。


「はぁ……はぁ……やった……」

『お見事です、シンタロウ様』

「……お、おう」

『では、次の個体の修理をお願いします』

「無理無理無理!! 精神が極限まで疲労してるから!! 今日はもう無理!!」


 嘘だろ……?

 これ、三十体全部やるのかよ……。


 そんな簡単にマイホームは手に入れられないってか?

 でもやるしかねぇ……。


 一日の大半を千年分のアニメと漫画に費やすんだ。

 理想郷ユートピアを完成させるためには、これ位の困難は乗り越えないと……。


 現実逃避することで期待に胸を膨らませていると、俺の思考を見透かしたかのようにオルディナの声が届く。


『そんなに上手くいくでしょうか?』

「え? 何が?」

『あなたがどう生きていきたいかは把握しております。ですが、ヒルデガルドの動向が気になります。折を見て、必ず視察に来るはずです』

「……かもな」

『その時に、このロボットたちを見て何を思うでしょう』


 そう言えば俺は公爵家の従属騎士になったんだっけ?

 まさかこのロボット軍団を率いて、帝国軍との戦いに参加させられる……?


 明日からの修理作業のモチベーションが、ちょっとだけ下がった気がした。

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