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第42話 王位継承戦(急)―― 3

 パーティは何事もなく、予定通りに進行していた。


 ジーニーのもとには、学生だけでなく関係者たちまでが、ひっきりなしに挨拶に訪れる。

 俺は上辺だけの笑顔を貼り付け、失言だけはしないよう気を配りながら、無難な受け答えに終始していた。


 もちろん、デアへの警戒を怠ってはいない。

 視線を悟られぬよう、あくまでさりげなく、その動向を追っている。


 特に注意すべき場所は――テラスだ。


 数日前、あいつがそこで魔法を発動したことを、オルディナから報告されている。

 多分、強力な振動で床の強度を脆くしておく事前準備でもしていたのだろう。


 一通りの挨拶ターンが終わると、ジーニーは関係者に呼ばれ、どこかへ行ってしまった。

 そのタイミングを見計らったかのように、背後から声をかけられる。


「ちょっといいかい?」


 振り向いた先にいたのは、デア。

 料理を盛った小皿とフォークを手にしていた。


「ああ、別にいいけど」

「君には色々と誤解されているような気がしてね。二人で話したいと思っていたんだ」

「誤解?」

「ここは騒がしいから、テラスにでも移動しないか?」


 ――来たか。

 一瞬、心臓がドクンと跳ねた。


「分かった」


 ◆◆◆


 デア・フリードハイムは、慎重にその時を待っていた。

 シンタロウと王女が離れる、その瞬間を。


 王女に一時席を外させる段取りは、すでに『平和派』の関係者に根回ししてある。

 ターゲットの二人とは、つかず離れずの距離を保ったまま、機を窺っていた。


 そして、その時が来る。

 王女が連れ出されるのを見届けると同時に、デアはシンタロウへと声をかけた。


「ちょっといいかい?」


 そう言って、そのままテラスへと誘導する。

 厚い雲が月と星を覆い隠し、深い闇の中へと、二人は進んでいく。


「君は僕のことを過激な平和主義者だとでも思っていそうな気がしてね」

「違うのか?」


 軽口のような口調だが、暗闇の中ではその表情は窺い知れない。


「とんでもない。現実主義者なだけだよ。帝国とまともにやり合っても勝てるわけがない。脳筋たちには理解できないようだけど」

「そうなのか? 俺は帝国のことがよく分からんから」

「保有する資源に圧倒的な差がある。身の程を弁えて、お付き合いしていこうってだけさ。仮に戦争にでもなったら、君もただでは済まないって分かってるかい?」

「ああ。デコイとして役に立てるよう、魔法の授業の時間は体力づくりをさせられてるからな……」


 シンタロウの言葉に、デアは思わず吹き出してしまう。


「デコイとは酷いな。でも、それはあながち冗談じゃない。貴族は率先して戦場に立つ義務がある。王族もそうだ。だから君がいくら陛下や王女殿下と仲良くなったところで、それが免除されるわけではないということを覚えていて欲しい」

「え……? マジで?」

「僕もこんなことを言うのは恥ずかしいが、戦争になんか参加したくない。怖いよ。だから、『軍国派』に権力を握らせるわけにはいかない」


 そう言ってデアはシンタロウに背を向け、引き返していく。


「だから、君も真剣に考えて欲しいんだ。今まで君がやって来たことは、本当に君の為になっていたのか、をね」


 後ろを振り返るが、シンタロウからの反応はない。

 ただ黙ったまま、その場に留まっている。


 自分の言葉が、少しは響いたのだろうか。

 もし一緒に会場へ戻ろうとしてきたなら、プランBを実行するつもりだったが――どうやら、その必要はなさそうだ。


 デアは中へ戻ると、すぐに王女の姿を見つけた。


「殿下、申し訳ございません。あちらでシンタロウをお借りしていました」


 そう言って、テラスを指し示す。


「そう。何を話していたのかしら?」

「男同士の恥ずかしい内緒話です。殿下にはお聞かせできません」

「いいわ。彼に聞いてみるから」


 アルフォンジーヌはそう言って、テラスへと向かっていく。


「あ、殿下」

「なに?」

「アップした髪が少し乱れております。直しますので、お待ちください」


 デアは慣れた手つきで王女の髪に触れる。

 社交界で貴婦人のエスコートを務めた経験が活かされていた。

 そして埃を払う仕草に紛れて、そっとヘアピンを挿し込む。


 ――魔力を無効化する「マイナス魔鉱石」で作られた、特製のヘアピンを。


「ありがとう。助かったわ」

「いえ、お気になさらず」


 そして、王女がテラスへ向かっていくのを見届けると、デアは足早に会場を後にした。


 目指す先は、男子トイレ。

 誰にも見られないよう、個室に籠もるのだ。


 ――しかし。


 入口には、清掃中を示す立て札が置かれていた。


「ちっ」


 苛立ちを隠そうともせず舌打ちし、周囲を一瞥する。

 時間がない。

 仕方ない、どこか別の場所で――。

 そして人目につかない場所を探し、ちょうどいい物陰を見つけると、そこへ滑り込んだ。


 あらためて周囲を確認し、誰もいないことを確かめるや否や、その身体が金色の光に包まれた。


「今度こそ、さよならだ」


 冷たく言い放たれたその一言と同時に、床が大きく揺れた。

 二度、三度と断続的に揺れ、やがて余震の名残を残しながら、ゆっくりと収まっていく。


 デアの口元に、満足げな笑みが浮かぶ。


 ――しかし、デアは気づいていなかった。


 その時、物陰から――小さく、鋭い閃光が一瞬だけ彼を照らしたことを。

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