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第41話 王位継承戦(急)―― 2

 放課後、いつもの物見塔で俺は夕焼けを眺めながらため息を吐いた。


「はぁ。めんどくせぇな……」

「何がめんどくさいのかしら?」


 頭上から凛とした声が響く。

 それが誰か、わざわざ確認するまでもない。


「クリスマスパーティ。何だよ、必ず男女ペアで参加って」

「あら。楽しそうじゃない」


 そう言ってジーニーは、ふわっと俺の隣に舞い降りた。


「ザイデルの学園ではこんなイベント無かったんだけどな……。ジーニーは去年、誰と参加したんだ?」

「去年は面倒だったので不参加よ」

「え……? そんなの許されるの?」

「そういう時には、王女という地位が役に立つのよ」

「ああ、そう……」


 俺みたいな単なる男爵じゃ、その手は使えないな。


「……楽しそうってことは、今年は参加するの?」

「ええ、もちろん。まだ誘われてないけど」


 えっと……。

 これは、そういうことなのか……?

 寒いのに背中に汗がにじみ出してくる。


「そ、そう。俺もまだ相手がいなくて……」

「……」


 一段と空気が冷え込んでくる。

 覚悟を決めろ、俺……。


「その、もしジーニーが良ければ、俺と一緒に参加してもらっても?」

「ええ、いいわよ」

「良かった。まぁ、単なる授業の一環だから、そんなに堅苦しく考えることは――」

「私は授業とは思ってないけど。貴方はそんな軽い気持ちで、王女を誘ったのかしら?」


 一瞬和んだ空気が、またすぐに冷え込み始める。

 ジーニーの顔が怖くて見れない。


「い、いや。軽いなんてとんでもない! 俺がどんだけ勇気を振り絞ったと思って――」

「そう。ならいいわ。でも、この程度の誘いで勇気を振り絞ってどうするのよ。貴方はこの先、もっと重い申し込みをしなければならないのに」

「ん? 重い申し込み……とは?」

「それくらい、自分で考えなさい」


 ジーニーはにっこり笑ってそう言うと、塔から舞い降りていった。


 まさか、ヒルダから急かされている『約束』の類じゃないよな……?


 ◆◆◆


 クリスマスパーティ。

 デアはここで何か仕掛けてくる。

 俺の勘がそう言っていた。


「絶対にジーニーを巻き込むことは出来ないな」


 奴ら『平和派』は、あわよくばジーニーの退場も願っているはずだ。

 今や彼女はゲーアハルト国王復権プロジェクトの最重要人物として、立ち位置が明確になっている。


 とはいえ毒を盛るとか、そんな単純なことはやってこないだろう。

 万が一に備えて、オルディナには監視させておくけど。


 あいつの使う『共振波』の魔法は意図的に地震を引き起こすことが可能だ。

 普通に考えると「床を崩して、俺を落下させる」になるわけだが、重力魔法を操るジーニーには通じない。


 ――であれば、問題ない。

 俺の最優先はジーニーを守ることだからだ。


 そして、重要なのは今度こそ「証拠を掴む」ことだ。

 前回の古代遺跡の崩落では、準備が足りないどころか予想すら出来ていなかった。

 だから今回はこちらから、あえて誘導する。


 でも、俺だけじゃ無理だ。

 いくら陛下や王女と親しく接していると言っても、所詮、俺はただの男爵だ。

 第二王子の側近である公爵の嫡男と真正面からぶつかっても勝てるわけがない。


「お茶会……」


 ふと、頭に浮かんだ。

 シーヴァートから頼まれている、ジーニーを囲んでのお茶会。

 ジーニーには申し訳ないけど、これを利用してみるか。


 ◆◆◆


 そして、いよいよパーティ当日となった。


 俺は人生初のタキシードみたいな衣装に蝶ネクタイという出で立ちで、会場に到着した。

 隣には、純白のドレスと宝石のティアラに身を包んだジーニー。

 当然ながら、エスコートの作法など分かるわけがない。

 去年はいなかったんだから、習ってないしな。


 ジーニーの美しさに、あちこちから「はぁ……」や「ほう……」といった感嘆のため息が漏れ聞こえてくる。

 彼らの目には、きっと俺の姿など映っていないのだろう。


 ただ、ジーニーに恥をかかせるわけにはいかない。

 こういった場の作法が分からないと正直に打ち明けると、「私に任せて」と心強い言葉をもらえた。

 俺はありがたくその一言に甘えさせてもらい、完全に身を委ねることにした。


 ジーニーは俺の腕にそっと手を掛け、周囲に笑顔を振りまきながら、体をぴたりと寄せて歩く。


 ……。

 気のせいか?

 その多少控えめな胸が俺の腕に当たってるんだが……。

 当たってることに気づいていないのか?


 思わずジーニーの表情を伺ってみるが、笑顔のままだ。


 う~ん、いいのか、これ。


 そんな葛藤を抱えながら連れ回されていると、デアの姿が目に入った。

 すると、俺の視線に気づいたのか、こちらへ近づいてくる。


「ずいぶん、サマになってるじゃないか。王女殿下のお相手として申し分ないように見えるよ」

「そりゃ、どうも。どう動いていいのか分からないから、全部任せちゃってるけどな」


 デアの隣には、見たことのない令嬢。

 学園の生徒ではない気がする。


「そうか。今日は『良い夜』になるといいな」

「ああ。お前にとっても、『忘れられない夜』になることを祈ってるよ」


 その言葉の裏にある意味を、俺たちは確かに感じ取った。

 だが、それを表には出さない。

 端から見れば、お互いが何かを腹のうちに抱えているようになど思えないはずだ。


 これが貴族の会話って奴だ。

 いつの間にか俺もその色に染まり始めていたようだ。

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