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第40話 王位継承戦(急)―― 1

 吐く息も白くなり始めた十二月に突入した。

 国王復権プロジェクトが本格化してから二ヵ月。

 フリードハイム公爵邸にて『平和派』幹部定例会が開催されていた。


「また離反者が出たようだな」


 デッドリック第二王子は、会議の席に着く者たちを見渡し、苦々しく言葉を発した。

 以前は二十名ほどが集っていた定例会だが、今では十五名ほどしか姿を見せていない。


「はい。昨日、レーネル伯爵より離脱する旨の報告がありました」

「ちっ」

「で、ですが『軍国派』も同じような状況でして、奴らとの勢力関係には変化はございません」

「あいつらとはそうかもしれんが、父上との間ではどうだ? もはや完全に三つ巴の状況ではないのか?」


 デッドリックのその問いに、誰も答えることが出来ない。

『平和派』離反者たちは表立って他の派閥に移るような真似は見せていないが、それは結局のところ『現状維持』を支持することを意味している。

 つまり、現国王ゲーアハルト体制の継続である。


「シンタロウ・タムラ……。手をこまねいている間に、奴がこんなにも場を乱す台風の目になるとは全く想像がつかなかったな。最近の様子はどうなんだ?」


 周りの目が一斉に、デアに向けられる。


「は、はい。相変わらず陛下とは事あるごとに密談を交わしているとの目撃報告があります。そして、王女殿下もお忙しい合間を縫って、奴とのデートを楽しんでおられるようです」

「……奴の目的は何だ? 父上を復権させることによって、どんなメリットがある? 誰が王位を継ごうと、奴には影響などないだろう?」


 場に、重苦しい沈黙が広がる。


「お、恐れながら申し上げます」


 おずおずと手を挙げ、デアが再び口を開いた。


「まさかとは思いますが、将来的な王位簒奪(さんだつ)を企んでいるのではないかと」


 その一言に、ざわめきが沈黙を塗り替えていく。


「なに?」

「まさか、そこまで愚かではあるまい」


 だが、デッドリックにはそれが単なる冗談には聞こえなかった。


「……アルフォンジーヌの婿となるのであれば、その可能性も僅かにあるだろう。あくまで、僅かだが」


 そして、氷のような視線をデアに向け、告げる。


「だが、たとえ僅かであっても、そのような芽を残すわけにはいかない。デア、もう一度お前に任せても大丈夫か? さすがに、我々が学園に直接手を出すわけにはいかないからな」

「はい。今度こそ、必ずご期待に応えてみせます」


 デアの目には、確かな決意が宿っていた。


 ◆◆◆


 陛下が力を取り戻し始めてから、俺は今まで以上に警戒を強めている。

『軍国派』『平和派』どちらにとっても、俺の存在は邪魔なはずだからな。

 俺が陛下と何やらこそこそしてることなんて、絶対にバレてるはずだ。


 というわけで、少し前からオルディナに両派の動きを密かに探らせている。

 そのリソース圧迫の代償として、ホログラムアニメの視聴が犠牲となった。

 そして、風呂に入っている時以外は常にパワードスーツを着込んでいる。

 今が冬で助かった。

 夏だったらクソ暑くて大変なことになっていただろう。


 学園の勢力図にも変化が現れ始めていた。

 すなわち、両派からの離脱による『現状維持』派の増加。

 かつてはデアの取り巻きのようだったシーヴァートも、『平和派』の連中とは少し距離を置いている。


 ……その結果として。


「なぁ。あの話、どうなった?」

「あの話?」


 めんどいので、俺はわざとすっとぼける。


「で、殿下とのお茶会だよ!」

「ああ、そんな話してたっけ。でも殿下はお忙しいからなぁ」

「だからお前にしか頼めないんだって! 頼むよ、何でも奢るから!」


 こいつ、こんなに肉食系だったのかよ。

 でもそんなオーラ出してると、ジーニーには嫌われちゃうぞ☆


「本当に頼むって!」


 そう言って、俺の手をがっしりと握りしめてくる。

 血走った目で。


「分かった。聞くだけ聞いてみるけど、あんまり期待するなよ」

「もし断られたら、ヒルデガルド嬢でもいい」

「は?」

「冬休みにまた王都の別邸に遊びに来るんだろ?」

「らしいな。何で知ってんの?」

「ふっ。俺の情報網を甘く見るな」


 そう言って、シーヴァートは得意げな顔を見せる。


「彼女の取り巻きのブレンダとは幼馴染なんだ。常に情報交換をしてるのさ」

「へぇ。交換ってことはお前も何かの情報をあげてるの?」

「ああ。ブレンダは密かにマリウスに憧れてるからな」


 なるほど……。

 それで、最近こいつは俺やマリウスに近づいてきたのか。

『平和派』を抜けた振りしたスパイかと思ってたけど、ただの女好きってだけかよ。

 デアとつるんでた頃より、ずいぶんイキイキしてるな、おい。


「おい、マリウス! 聞いたか?」


 俺は後ろの席を振り返って、別の生徒たちと談笑しているマリウスに話を振る。


「なんだ? 俺が何か?」

「ブレンダって知ってるか? ヒルダの取り巻きの」

「ああ。彼女は子供の頃、王都にいたんだよ。社交の場で何回か会ってる」

「へぇ。お前に興味があるらしいぞ」


 しかし、マリウスは表情一つ変えない。


「ああ、そう。それは光栄だな」

「……なんだよ、つれないな。今は『軍国派』のあれこれで手一杯ってか?」

「いや、そんなことはないぞ。ヴェルンハルト殿下も以前ほどの熱が無いし」

「え? そうなの?」

「殿下は現実主義者だからな。両派の離脱者も増えて、デッドリック殿下の脅威も下がったんだろう。あくまで、あの御方を王位に就かせないことを最優先にして動いてこられたからな」


 マジかよ。

 だったら『軍国派』の監視を緩めて、『平和派』に集中するか?

 デアの動きが読めないからな。

 奴はマジで命に関わるようなことでも平気で仕掛けてきそうだし。


「ところで、シンタロウ。来週のクリスマスパーティはどうするんだ?」

「……ああ、そんなイベントもあったな」


 社交界での立ち居振る舞いを学ぶ訓練の一環として、男女ペアでの参加が義務付けられている悪夢のようなイベントだ。


「相手がいなければ、見ず知らずの学園関係の貴婦人が割り当てられる。君は殿下と参加されるのか?」


 マリウスの問いに、なぜかシーヴァートが俺をキッと睨みつける。


「いや、どうだろう。さすがに恐れ多いしな……」

「もし誘いづらいのであれば、俺の妹を紹介してもいいが」


 その瞬間、背中にぞくりとしたものが走った。

 恐る恐る振り返ると、ジーニーの鋭い視線が俺を突き刺していた。


「そ、そうか。ありがとう。ちょっと考えてみるよ……」

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