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第32話 王位継承戦(序)―― 4

無事に脱出に成功した。


「殿下、大丈夫ですか?」

「ええ、貴方のおかげで助かったわ。……本当にありがとう」

「いえ、俺も殿下がいてくれて助かりました。一人だったら、マジで途中であきらめてたかもしれません……」


そう言うと、殿下は少し照れたように微笑んだ。

あの暗闇の中で見せた絶望の表情は、もうそこにはなかった。


星々の明かりに照らされ、俺たちは集合地点へと引き返していく。

その途中で、マリウスたちと出くわした。


「お、おい!! 無事だったか!!」

「王女殿下、ご無事でしたか! 心配いたしました……」


俺たちの捜索に出ていたのであろう。

みんな疲労困憊のようだ。


「ああ、向こうを探索してたら崩落に巻き込まれてな。脱出に手間取ったよ」

「とりあえず良かった。みんな心配してる。急いで戻ろう」


マリウスが周囲に向かって「見つかった! 戻るぞ!」と声を張り上げると、それに呼応するように、その言葉が次々と周囲へ広がっていった。


馬車の集う集合地点に到着すると、担任の教師が死にそうな顔で殿下の元へ駆けてくる。


「で、殿下!! ご無事でしたか!! 本当に良かった……」


そう言って、へたり込みそうになる。


そりゃ、そうだ。

王女が行方不明などの事態になっていれば、責任を問われて、この担任のクビなど飛んでいたはずだ。

比喩的表現ではなく、マジで物理的に。


「ご心配をお掛けしました。まさか、あんな事故に遭うなんて」

「いえ……。お疲れでしょう。馬車でお休みください」

「ありがとう」


そう言って、殿下専用の特製馬車まで案内していく。

その様子をぼんやり眺めていると、横から声をかけられた。


「いや、本当に心配したよ。とにかく、君も無事で良かった」


デアは、心の底から安堵したような表情を見せる。


こいつ……。

こんな顔が出来るなら、役者になれるな。

表情を作る訓練とかもやってるのか?


「ああ、みんなには迷惑をかけた。悪かったな」

「とんでもない。崩落に巻き込まれたって聞いたけど、大丈夫だったのか?」

「まぁ、何とかな」

「そうか……。本当に良かったよ」


今回は証拠がないから、問い詰めることは出来ない。

だから、もう二度と隙を見せない。

命が懸かってるなら、こっちも本気で相手するしかない。


行きと同じく、マリウスと同じ馬車に乗り込む。

窓の外を眺めながら、これから『平和派』とどう対峙していくかを考える。

もういっそのこと、堂々と殿下と仲良くやっていこうか。

で、同時に『軍国派』にも接近していけば、もっと分かりやすく俺に対する攻撃をしてくるだろう。

そうすれば、今度こそ証拠を掴むチャンスも出てくるはずだ。


でもその場合、『軍国派』はどうなる?

散々思わせぶりな態度を見せておいて、実は派閥に入る気は無いんですぅ、なんてことが許されるか?


……無理だな。

両派を敵に回す最悪な未来が待ってる。


じゃ、やっぱり殿下とは距離を置くのがベストか?


いや、彼女の孤独と苦しみを誰よりも知ってしまった以上、放っておくことはできない。


どうすりゃいいんだ、分かんねぇよ。

我ながら、自分のお人好しぶりが嫌になる。


俺は穏やかに暮らしたいだけなのに。


◆◆◆


沈黙が続く馬車の中で、気まずさに耐えかねたかのように、シーヴァートは隣に座るデアに向けて口を開く。


「まさか、無事に生還してくるとはな。崩落が甘かったのか?」

「ああ、そのようだ。もっとちゃんと確認しておくべきだった」


そう言いながらシーヴァートに顔を向け、続ける。


「君は少しホッとしているような感じだな?」

「そ、そりゃ……。まさか殿下が巻き込まれてるなんて思いもしなかったからな」

「ん……? 考えられる限りで最高のシチュエーションだっただろう? せっかく神様が用意してくれたチャンスを、僕はみすみす逃してしまった」

「は? 何を言ってる……?」


シーヴァートは驚いて、隣を見る。

しかし、デアは苦虫を噛みつぶしたような表情で続ける。


「だって、そうだろう? 殿下の存在なんて僕らに何のメリットもない。『軍国派』の連中にとっては利用価値はあるだろうけど」

「それは……」

「殿下がいなくなれば、構図はシンプルになる。でも現実には存在するから、色々面倒な仕事が増える」

「……だ、だからと言って、命を奪ってもいいとは僕には思えない」


シーヴァートは唇をギュッと噛みしめる。


「ふっ、君が殿下に憧れているのは分かってるさ。でも、その甘さが命取りになると前にも言ったはずだ。……まぁ、いい。それよりも問題はシンタロウの方だ」

「問題……? 今回生き延びたことか? またチャンスはあるだろ?」

「どうかな。今回の件、僕たちの罠だって気づいてたよ」

「ほ、本当か!? 証拠なんて何も残っていないだろ?」

「ああ。でも、さっき話した時の顔で分かった。間違いなくバレてる」

「そこまで頭が切れるとは、とても思えないけどな……」


デアは窓の外に目を向けて、それに答える。


「魔力ゼロで、ここまで成り上がった奴なんだ。間違いなく何かを持ってる。古代遺物レガシーを操るとか、そういうのじゃなく、もっと根源的な何か」

「……よく分からないな」

「例えば勘とか、経験とか。僕たちよりも何歳か年上なんだから、そういったものが磨かれてる気がするよ」

「買い被り過ぎじゃないか?」

「そうかもしれない。でも僕は今日の一件で、ますます彼に対する警戒を強めることにしたよ」

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