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第3話 ザイデル公爵領にて―― 2

「ふぅ……。何とか助かったか。てか何だよ、お前。ご主人様があんな屈辱的な扱いを受けてたのに助けてもくれないなんて」


 避難民の登録説明会が終わり廊下に出ると、誰もいなくなったタイミングで俺はオルディナに愚痴を言う。


『あなたは私のご主人ではありません。貴重なサンプルです。お互いの利害関係の為に協力しているとご認識ください」

「……え? そうなの?」

『はい。あなたを利用しても私の学習に何ら有益性が認められないと判断した場合は、接触を遮断しますのでご承知おきください』

「ちょっと待って? ドライすぎない? お前に見捨てられたら俺生きていけないんだけど……」


 突然突きつけられた現実に、俺は恐怖を感じた。

 生殺与奪の権を他人に握らせるなって冨岡義勇も言ってるだろ……?


「てかさっき、魔力ゼロの俺だと王国民の義務を果たせないとか言ってたけど、どういうこと?」

『黒い瞳の人間は、魔力を魔法に変換できません』

「ん? 魔法使えないってこと? だったら魔力あっても意味無いじゃん」

『はい。ただ、使いどころのない魔力はインフラ用のエネルギーに変換することで社会貢献が可能です』


 そういうことか……。

 何も貢献できない俺はこの世界だと確かにモブ以下のゴミだな。


「で、フンパーディンク鉱山だっけ……? 落盤事故でたくさん死んだとか言うし過酷な環境なんだろうな……」

『その通りです。ただし超優良な魔鉱石も眠っております。その鉱脈を探り当てることが出来れば、金銭的に余裕も生まれるでしょう』

「ほう……。で、お前は知ってるの? その場所」

『もちろんです。この世界の全ては解析済みですので』


 俺が生きて無事にそれを掘り当てたら、今後この国で暮らしていくことを許してもらえるかな……。

 大金なんていらないから。

 質素で慎ましくても、誰にも文句を言われない生活を送れれば、それで充分だから。


 ◆◆◆


 収容所にやってきた大型馬車に数人で乗り込む。

 車体の外側には見慣れない魔道具っぽい何かが取り付けられていた。


 陰鬱な気持ちで窓の外の景色を眺めていると、オルディナが語りかけてくる。


『右手の森をご覧下さい。木々の根の下には古代遺物レガシーが眠っております』

「古代遺物? どんな?」


 周りに気づかれないよう、出来るだけ小さな声で聞いてみる。


『工場などの施設です。作業用ロボットなども多数あります』

「へぇ……」


 本来ならロマンを感じるべきなのだろうが、今の俺にはそんな余裕は全くない。

 圧し潰されそうな現実を噛みしめ、じっと耐えていたら、しばらくして目的地に到着した。


 鉱山の入口には既に人だかりが出来ている。

 百人くらいいるだろうか。

 引率のおっさんに急かされながら、俺たちもそこへ向かう。


「よし、これで全員揃ったな。整列してしばらく待て」


 現場監督と思われる髭面のおっさんの指示に俺も大人しく従う。

 そして何故か真ん中の列の一番前に立たされた。

 つるはしやハンマーにヘルメット、懐中電灯などが順番に手渡されていく。


「よーし、全員に行き渡ったな? もうすぐ到着するそうだからちょっと待て」


 到着?

 何か道具でも届くのか?


 遠くから馬車が近づいてくるのが見えてきた。

 俺たちが乗ってたのとは明らかに違う、いかにも高級そうな馬車だ。

 少し離れた場所に止まると、中から一人の少女が降り立つ。


 サラサラの金髪が風にそよぎ、着こなしている作業着にまで気品が溢れている。

 鉱夫たちの間にざわめきが広がっていく。


「おお、ヒルデガルド様!」

「はぁ……。ますますお美しくなられた……」

「作業前の激励に来て下さったのか。何とも贅沢な目の保養……。ありがてぇ」

「俺はもうその御姿を目に焼きつけたぞ。この後死んでも思い残すことはない」


 ……は?

 ヒルデガルドって公爵令嬢だっけ?

 てかどう見てもまだ十五歳位のどこがいいの?

 こいつらに二次元の女の良さを教えてあげたいよ。


 ヒルデガルドはファッションモデルのようなイラつく歩き方で俺たちの前までやって来た。


「皆の者、我が公爵家の為に危険を冒し、作業に取り組んで貰えることを心より感謝する」


 凛とした透き通る声が響く。


「と、とんでもねぇ! ヒルデガルド様の為なら、命なんていくらでも賭けられます!」

「お、おい、俺が言おうと思ってたことを先に言うな」


 くだらないことで言い争いが始まるが、令嬢の咳払い一つで場は瞬時に静まり返る。


「気持ちはありがたい。だが、民があってこその貴族だ。くれぐれもその命を無駄にするな」


 めっちゃ偉そうだな、小娘のくせに。

 貴族ってそういうもんなのか?

 お前、俺の立場になってみろよ。


 俺が冷めた目でその後もしばらく続いた茶番を聞き流していると、ヒルデガルドの真紅の瞳と目が合った。


「む? お前だな? 魔力を持たない無能というのは?」

「は、はい、その通りでございます」


 突然話しかけられて、心臓が飛び出しそうになった。

 俺をこんな目立つところに立たせたのはこの為か。


「魔力を持たない? どういうことだ?」

「おいおい、猫や犬にも魔力はあるんだぞ? 底辺の生物じゃねーか」

「まさか、この世に俺以下の役立たずがいるとは」

「よくもまぁ恥ずかしげもなく生きていられるな」


 背中にゴミを見るような視線がいくつも突き刺さっているのを感じる。

 嫌な汗が噴き出してくる。


「静かに」


 ヒルデガルドの一喝で、静寂が戻る。


「本来であればお前を生かしておく理由はない。だからここでお前は自分の価値を示す義務がある。他の者たちを圧倒する成果を上げてみよ」

「しょ、承知しました!」


 俺は深々とお辞儀をする。

 こんな小娘に偉そうに指図され、胸の奥がギリッと痛んだ。


 絶対にオルディナが言ってた鉱脈まで辿り着いてやる。

 そして、その金で隠居生活を送ってやるぞ。

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