第26話 王都の学園―― 3
「あの留学生を取り込んだところでメリットなんてあるのか? 魔力も無いんだぞ?」
放課後。
いつものように、マリウスの部屋には同志たちが数名集まっていた。
取り巻きとは違う。
親の爵位の差はあれど、同じ政治志向を抱く、いわば戦友である。
「だからこそだ。魔力ゼロの状態で、君たちはここに来れるほど、成り上がれると思うか? 間違いなく、何かがあるはずだ」
「……」
「それに、王女殿下のあの発言にも思うところはなかったか?」
「ああ、それは確かにな」
「……そういえば、ザイデル公爵のヒルデガルド嬢は、彼に熱を上げているそうだな」
「え……? う、嘘だろ? 俺、彼女のファンなんだけど」
「ひょっとして、ああ見えてモテるのか……?」
「おいおい、王女殿下とヒルデガルド嬢を両手の花にするなんて、暴動が起きるぞ……」
一同に、別の意味で衝撃が走った。
こういったところは、いかにもまだ16歳の少年たちといった感じだ。
「とりあえず取り込むかどうかは、歓迎会での様子次第だ。彼の発言の一つ一つに、注意を払って、真意を見極めるぞ」
マリウスの言葉に、一同はコクリと頷いた。
◆◆◆
『あなたは危機感が足りないようです』
部屋に戻るなり、オルディナの声が響く。
「は……? いきなり何だよ」
『王都を領都ザイデルと同じか、少し上くらいの感覚でいませんか?』
「いや、めっちゃ上だと思ってるよ。規模が全然違うし」
『規模の話ではありません。質の話をしています』
何だ?
珍しく説教モードに入ったのか?
『王都の貴族間では毒殺や暗殺、事故に見せかけた不審死が日常茶飯事です。あなたは、それを他人事だと思っていませんか?』
「いや、いきなりそんなこと言われても現実感が湧かないよ」
と言いつつも、教室で感じた突き刺すような視線を思い出す。
いや、まさかな……?
『以前お伝えしたはずです。マルはそれなりのボディーガードになると』
「ああ、それは聞いてるけど、こんなのを四六時中そばに置いとく訳に行かないだろ? 悪目立ちしすぎだよ」
『透明モードにすれば良いだけです』
「え……? 透明になるの、こいつ?」
『表面には再帰反射材がコーティングされていますので――』
その後の説明は全く意味は分からなかったが、俺の指示一つで透明になることだけは分かった。
『ただし、マルが自発的にあなたを保護することはありません。あくまで、あなたからの指示が必要となります』
「了解。俺自身で危険を察知しないといけないわけね」
じゃ、これからはどこに出かけるにしてもマルをお供にしていこう。
◆◆◆
そして、夜になる。
そろそろ腹が減り始めた頃に、マリウスたちが迎えに来た。
俺は早速、透明化させたマルを連れて部屋を出た。
連れていかれた先は、寮を出て少し歩いた場所にある小洒落た料理店だった。
「ここは俺の親族が経営している店でね。今日は貸し切りにしてもらった。心ゆくまで語り合おうじゃないか」
「そ、そうか。緊張するけど……」
えっと、こいつは教室にいたハーマンだったな。
伯爵の次男だったはず。
てか、集まってる十五人の中に、教室では見覚えのない顔が結構ある。
俺がキョドっている様子を察したのか、マリウスが説明を入れる。
「ああ、今日集まったのは二年だけじゃなくて、他の学年もいる。気が合う連中さ」
そして、また自己紹介が始まっていく。
「俺は三年のバルタザル。父はバッハマン伯爵だ。お気楽な三男だよ」
「ど、どうも宜しくお願いします」
てか、みんな伯爵以上の家柄じゃん……。
男爵ごときの俺と世界が違い過ぎないか?
そんな感じで各自が自己紹介している間に、目の前には美味そうな料理が次々と並んでいく。
そして、マリウスの乾杯(と言ってもジュースだけど)の挨拶の後、会が始まった。
まずはステーキにかぶりつく。
……!!
美味い!!
味が濃い!!
夢中になって食っていると、マリウスが満足そうな笑みを見せた。
「どうだい? 俺の好みの味付けにしてもらったんだけど?」
「めっちゃ美味い……。寮の飯は味が薄すぎて、いまいち合わないから」
「良かった。食堂での君は物足りなそうな顔をしていたからな。ひょっとして、と思っていたんだ」
え?
いつの間にそんな観察されてたの……?
やっぱ怖えええ。
「ふっ。マリウスは馬鹿舌だからな。同志が増えて良かったじゃないか」
「おいおい、大人ぶるなよ。あんな精進料理に満足してたら、力が湧いてこないぞ」
なんか普通の学生って感じのやり取りしてるな。
腹が満たされてくると、話も弾んでくる。
「で、単刀直入に聞こう。タムラ男爵」
マリウスがグラスを置く。
「シンタロウでいいよ。堅苦しいのは苦手だ」
「そうか、ではシンタロウ。君はどっちだ?」
その言葉に、一瞬で場が緊張に満たされた。
みんな笑ってるけど、目だけが笑っていない。
貴族は腹の探り合いじゃないのかよ。
「どっち……というのは『軍国派』か『平和派』かってこと?」
「そうだ。別に君がどっちだろうと、何か強制したりすることはないから安心してくれ」
ホントかよ……。
「いや、まだそういうのは全然分からなくて。ザイデルではそんな話題が出ることも無かったし」
「ふむ。まぁ確かに王都以外ではそうかもしれない。ちなみに聞いてるかもしれないが、俺たちは『軍国派』だ。ヴェルンハルト殿下に心酔している」
そう言うと、その赤い瞳を鋭く光らせた。
「へ、へぇ……。そんなに凄い方なのか、殿下は?」
「ああ。十年前の帝国との大戦でも、学生ながら獅子奮迅の活躍をされていた。俺たちの誇りだよ」
そしてその後は、みんなからヴェルンハルトの武勇伝を延々と聞かされる羽目になった。
どうやら超強力な炎魔法の使い手らしい。
その話が全部本当なら、もう怪物と呼ぶしかない。
だが、そこで野暮な突っ込みを入れて場を白けさせる気にもなれず、俺は適度に驚いた振りをしたり、相槌を打っていた。
ヴェルンハルト英雄伝が終わると、話題が変わる。
「ところで、シンタロウ。君はヒルデガルド嬢とずいぶん仲が良いと噂を聞いてるが本当か?」
その質問に、一瞬で場が緊張に満たされた。
みんな笑ってるけど、目だけが笑っていない。
またかよ!
「ま、まぁ、そうだな。色々、俺のことを気にかけてくれてる」
「それだけか?」
圧が凄い。
何だ、こいつ。
「二人で時々遊びに行ったりはしていたが……」
「なんだと!? まさか、あんなことやこんなことを――」
あんなことやこんなことって何だよ。
俺は二次元の女にしか興味が無いんだよ。
説明できないのがもどかしい。
その後も散々ヒルダの質問をされて、夜は更けていく。
結局、俺を『軍国派』へ取り込むことより、ヒルダの話の方がメインとなった歓迎会だった。




