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第25話 王都の学園―― 2

 四月になる。


 王都の学園の男子寮は、ザイデルのそれよりも一段階上のレベルの造りだった。

 ただ、食堂のバイキングは種類こそ増えていたが、味の薄さは相変わらずだった

 俺はもちろん、食事の時以外は部屋の外へは一切出ず、ひたすらアニメを見て過ごした。


 そして、いよいよ授業が始まった。

 フォルカー先輩によれば、この学園に通うのは宮廷貴族の子弟の中でも、さらに選抜されたエリートだけらしい。

 王都暮らしで入学できなかった者は、他領の学園へ編入していくのだという。


 俺は担任に連れられ、二年生の教室に足を踏み入れる。


 瞬間、突き刺さるような視線。

 鋭くもあり、値踏みするようなねっとりしたものも含まれている。


 怖えええ。


 二十人ほどの生徒が、無言で圧をかけてきた。

 シンと静まり返り、ピリついた空気に早くも胃が痛くなり始める。

 緊張でめちゃくちゃ噛みながら自己紹介を終えると、俺は担任に指示された席に着く。


「よし。それじゃあタムラ男爵のために、これから自己紹介をしていこうか」


 担任の声が響くと、誰からともなく、右列の一番前の生徒が立ち上がった。


「ツヴェルガー侯爵家の嫡男、マリウスだ。宜しく」


 終わると静かに腰を下ろし、次の生徒が立つ。


「フリードハイム公爵家の長男、デアです。どうぞ、宜しく」


 ――そんな調子で、順々に俺へ向けた自己紹介が続いていく。


 ザイデルでの補習で彼らの名前の殆どは知っていたが、顔と一致させるのはすぐには無理だ。


 そして。


「アルフォンジーヌ・シャウムブルクよ。この前はお世話になったわね。その調子で、この一年、私を楽しませてちょうだい」


 王女はそう言って不敵に笑った。


 瞬間、教室がざわっとした後。

 先ほどの観察するような鋭い視線ではなく、明らかに敵意が含まれた冷たい視線があちこちから突き刺さってくる。


 ……何だよ、これ。

 今の王女のどの言葉に、俺をここまで攻撃的な視線の的にする要素があった?

 お世話? 楽しませて?

 貴族は言葉の裏を読む力が必須、ってこういうことなのか?

 いや、全然わからんて……。


 結局、この日は一日中気が休まることはなく、ヘロヘロに摩耗した精神状態で何とか授業を乗り切った。


 しかし、これで終わりではなかった。


 寮へ戻る為に、急いで帰り支度を整えていると声を掛けられる。


「タムラ男爵。今晩はささやかながら、君の歓迎会を開きたい。何か予定はあるかい?」

「え……? あ、いや特に無いよ。ありがとう」


 行きたくないが仕方ない。

 予定があるなんて言って、突っ込まれたらボロを出すだけだし。


「そうか。では時間になったら君を迎えに行くよ。部屋で待機していてくれ」

「分かった。じゃ、また後で」


 てか、こいつは確かマリウスだったよな?

 敬称付きで呼ばれると、こっちは何て呼べばいいのか迷うな……。

 無難に君付けか?

 まだ爵位は持ってないはずだし。


 などと、悩んでいるとまた別の生徒に声を掛けられた。


「ずいぶんお疲れのようだね。まぁ、初日だから仕方ないが」


 えっと、こいつは確かデアだな。


「ああ、ザイデルの学園と比べると空気が引き締まり過ぎてると言うか……」

「ははっ。無理もない。王都では学生と言えど、すでに政治に足を踏み入れている者も多い。下手な発言は命取りになる可能性もあるからね」

「マジで……? 学生生活ってもっと楽しいものじゃないの? バカ話したり」


 デアは俺の言葉を理解できないといった感じで、不思議そうな顔をした。


「え? 楽しいじゃないか。将来必要となる宮廷での駆け引きを、今から実戦で学べるんだから」

「俺は宮廷で働くつもりなんてないから。国を動かすとかそういうのは、頭のいい人たちだけでやって欲しい」

「そうか。君はなかなか変わった価値観を持った人のようだ。アルフォンジーヌ様が、あのようなことを言うだけのことはある」

「あのようなこと……?」


 そうだ。

 あの言葉のどこに、みんな引っかかったんだよ。


「あのお方の『楽しませて』など、誰かに対し期待するような発言は初めて聞いた。氷姫と揶揄されるほどに他人に心を開かれない王女様だからね。気をつけた方がいいよ」

「気をつける? 何に?」

「あの美貌だ。多くの男たちが熱狂的なほど崇拝している。下手な噂が流れでもしたら、大変なことになるよ」


 ああ、それは予習済みだ。

 貴族の支持勢力は小さいが、市民からはめっちゃ支持されてるんだよな。


「そうだ。気をつけると言ったらもう一つ」


 デアは思い出したように表情を引き締め、続ける。


「さっき、ちらっと聞こえたんだけど、マリウスが君の歓迎会を開いてくれるそうだね?」

「ああ、そうらしい」


 本当は行きたくないけど、なんて言ったら失言として命取りになるのか?


「彼は『軍国派』だ」

「軍国派……。つまり、ヴェルンハルト殿下一派ってことか」

「そう。しかもツヴェルガー侯爵の嫡男。派閥の中核だよ」

「てことは、歓迎会と言いつつ……」

「その通り。君の志向が『軍国』なのか『平和』なのか知らないけど、なし崩し的に取り込まれないように気をつけてねってことさ」


 うわぁ……。

 めんどくせぇ……。


「何か困ったことがあれば、僕に言ってくれ。いつでも相談に乗るよ」


 そう言うとデアは教室を後にした。


 帰りたい。

 ザイデルに帰りたい。

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