第24話 王都の学園―― 1
王都へ到着するまでの間に、フォルカー先輩から今回の中心人物についてだけ情報を貰った。
まずはシャウムブルク王家の第一王子ヴェルンハルト。
極端な「軍国主義」で帝国から領土奪還の野心を隠そうともしていない。
宮廷貴族を中心とした保守派が支持しているそうだ。
次に第二王子デッドリック。
こちらは逆に「平和主義」で、帝国と和解することで経済の発展を目指している。
領主貴族や商会などを支持基盤に持つ。
そして最後は王女アルフォンジーヌ。
掴みどころがなく、どのような道を模索しているのか不明。
二人の王子と距離を置く少数派の貴族と一般市民――その圧倒的な美貌で、特に男たちによる熱烈な支持は、決して軽視できるものではないそうだ。
まさに三者三様。
この争いが勃発した背景には、二年前に現国王ゲーアハルトが病に倒れ、公務の遂行が難しくなったことがある。
そこから王子たちが代わりに職務を担い始め、権力の座を巡る火種が一気に表面化したのだ。
宮廷政治は残酷だ。
貴族たちはすでにゲーアハルトを見限り、次代の王となるべき者の選定と根回しを着々と進めていた。
シャウムブルク王国では、早く生まれたからといって高い継承権が与えられるわけではない。
それが状況をいっそう複雑にしている。
男も女も関係なく、その時点で最も有能な者が王となるのだ。
ゆえに、自分が支持した候補が王になれなければ、宮廷での地位は一気に瓦解する。
しかし、動きが遅れれば、有力な席はすでに他者の手に渡っている。
貴族たちにとっても、これは生き残りを懸けたサバイバル戦なのだ。
ドロドロした世界に染まってしまうのは、仕方あるまい。
◆◆◆
王都シャウムブルクへ到着した。
そのスケールは、領都ザイデルを遥かに凌ぐ。
遠くにそびえる城も、近くで見ればきっとめちゃくちゃ巨大なのだろう。
そして、視界に入るのは――どこを見ても人、人、人。
俺は早くも人混みに酔いそうになっていた。
馬車を降りてしばらくは、フォルカー先輩と二人で田舎者丸出しのまま、キョドりながら歩いていたが、ついに道が分かれる地点へと差し掛かる。
「先輩……! 落ち着いたらすぐに遊びに行きますんで!!」
「ああ、待ってるぞ」
俺たちは道の真ん中で、熱いハグを交わす。
周囲から冷たい視線を浴びたような気がしたが、気にしない。
学園へ向かう足取りが重い。
知り合いは誰もいない。
また一から人間関係を構築しなきゃいけない。
……マジで帰りてぇ。
俺の横をふわふわと浮かびながら進むマルに、道行く人々は一瞬ぎょっと目を見張るが、すぐにそっぽを向いて歩き去る。
その反応だけで、都会人ってやっぱ冷たいんだなと思わされた。
いくつもの坂を上りきった先で、ようやく目的地に到着する。
そして、寮へ向かう途中、視界に高い建物が映った。
あそこから街を見渡せば、きっと良い気分転換になるだろう。
俺はそのまま階段を上がり、外に面した見晴らし台のような場所へと出た。
「ん?」
――心臓が止まりそうになった。
手すりの上に黒髪の少女がボーっと突っ立っている。
え……?
飛び降りようとしてるのか?
両足がぞわぞわしてくる。
いきなり声をかけたら、ビックリしてそのまま落ちてしまうかもしれない。
ここは、慎重な行動が要求される。
さりげなく近づいていこう……。
俺は息を殺しながら、一歩、また一歩と――
「私のスカートの中を覗こうとしてるのかしら? 変態」
いきなり罵倒された。
「い、いや、そんなとこに立ってたら危ないだろ!? 降りろって」
「余計な心配は無用だわ」
そう言うと少女は空中に浮き、俺の近くまでやって来た。
「魔法……?」
「そうよ。私は重力を操れるの」
重力魔法……ってことか?
その瞳は、俺が今までに見たことがない色をしていた。
『琥珀色の瞳の持ち主は、攻撃でも癒しでもなく、特殊系に分類されます』
俺の戸惑いを見透かしたかのようにオルディナの解説が入る。
「私の魔法を知らない人なんて、まだいたのね。王都の人ではないのかしら?」
「ああ、ザイデルからさっき到着したばかりの留学生だけど」
俺がそう言うと、少女は一瞬だけ目を見開いた。
「あら、貴方が噂の」
「噂……? 何か嫌な予感がするな」
「そんなことはないわ。魔力が無いのに男爵に成り上がり、おまけに成績優秀。みんな貴方に興味津々よ」
「俺は別に成り上がりたくなんてなかったんだけど……。爵位を返上できるなら、すぐにでも返上したい」
思わず、ため息が漏れた。
「そうなの? ここに留学できた時点で、これからもっと出世することは間違いないと思うけど」
「マジで出世なんてしたくないから」
「珍しいわね? 権力があればあるほど好きなことが出来るじゃない。美しい女性たちに囲まれて、毎日美味しい食事を食べられる。気に入らないことがあっても、大抵のことはどうにでもなる」
「はっ。興味ないね。俺は誰にも邪魔されず、一人で静かに暮らしたいんだ」
俺の言葉に、少女は驚いた顔を見せた。
「……奇遇ね」
「え?」
「私もそうなの。一人で静かに暮らしたい」
そう言いながら、少女は手すりから飛び降りた。
「お、おい!」
しかし、余計な心配だった。
少女は何事も無かったかのように着地して、そのままどこかへと歩いていく。
「何だったんだ、あいつ?」
『アルフォンジーヌ・シャウムブルク。この国の王女です』
うげ……。
先に教えてくれよ……。
思いっきり、タメ口で話しちゃったじゃん……。




